1 ゼロに暗殺されたエリア11前総督、クロヴィス・ラ・ブリタニアは、それなりに民衆の人気を集めた統治者であった。 (ま、あくまで支配されている日本人じゃなくて租界のブリタニア人に、だけれどね) ちょっと心の中で皮肉ってみながらナマエは、スケッチブックの上に鉛筆を滑らせている。 今週は、そのクロヴィス前総督が遺した芸術週間。 エリア11におけるブリタニアの名門校、アッシュフォード学園もそれにならい期間中の芸術の時間を、大幅に増やしたのだった。 だから、今日は朝一番の数学の授業が美術に変わったのである。 今、教室の中央には、スケッチのモデルに推薦されたルルーシュ・ランペルージが据え置かれている。 確かに、眉目秀麗の代名詞と言うべき彼はモデルにはうってつけだろう。 机の上で一段高くなった椅子に腰掛け、所謂「考える人」のポーズ。 頬杖をつき俯く横顔に、満遍なく光が落ちて、かかる黒髪もきらきら照り映えている。 手足の長さもさることながら、実に板についている。 願い叶って狂喜乱舞の女子達は、喜びをはしたなく声には出さずに、黙々とルルーシュ・ランペルージの写生に取り組んでいるようだ。 中には見とれてスケッチが手につかない者もあり、むしろ合法的な視姦にあえて終始する者もあり。 それにしても眼差しが、異様な熱気を醸していた。 一方ナマエは、あんまり端整すぎるルルーシュでは逆に、変に気負って書きにくくて書きにくくて仕方がない。 (首の位置、もう少し右……? いや、やっぱり左……? ……うへぇ、線曲がった!) こういった芸事に特別の執着を抱いているわけではないが、やはり出来映えは気になってしまうもので。 模写ではあまりよくないことだとはわかっているものの、何本も線を重ねて当たりを探しながら、ルルーシュの輪郭を描いてしまうナマエだった。 (芸術は手強い……!) 前の席にいるシャーリーのスケッチブックには、綺麗なルルーシュの身体が、造作もなく描かれているのに。 ちょっとへこんだ。 あぁ、このまま首と肩を繋げたらまるでキリンになってしまう! いかがはせむ。 → [戻る] |