stage15 救出の一手 「カレン!! 聞こえるか、状況が変わった。 今すぐ、輻射波動で、村に溢れている水を気化させナマエを退却させるぞ!」 「聞こえてます、ゼロ! あとナマエも見えてます! でも……!」 ゼロは、村中にひそかに貫通電極と、それに付随して強力な電熱線が張り巡らしておいた。 貫通電極は、ナリタ連山で崖崩れを起こしたときにも使用した、一定の間隔が空いた先へエネルギーを効率よく伝える技術。 ナマエがコーネリアを捕らえた後は、それに輻射波動のエネルギーを流し、増幅させ、水を水蒸気に変えて退路を確保する予定だった。 村中の水すべてを気化させるのに必要な輻射波動は五発という計算。 「でも、何だ!?」 「わかっているとは思いますが、一発でも撃ったらブリタニアに気付かれて、きっとナマエが……! 連続放射には、限界も」 「……!」 じゃあ、一体全体どうすればいい! (だが、カレンの言う通り、五発も撃っている暇はない……!) ゼロは拳を自分の膝に打ち付けた。 まだナマエは、辛うじて無事ではある。 グロースター二機に囲まれて、試みた抵抗も軽くいなされて両腕を失ってはいたが、どうにか一瞬の隙をついて二機の間に割って入り、淵からは離れた。 しかし、それでどうということはない。 グロースターが振り返ってしまえば、ナマエが追い詰められる所はまた反対側の淵である。 それでも幸いだったのは、コーネリアがすぐにはサザーランドを倒したくはないようであったことだった。 ただ打ち負かすだけなら、腕をもいだりして、戦力を削ぎ落とすようなことはしない。 じわじわと弱らせるなどコーネリアにはそんな趣味はないように思われる。 パイロットが同じ女だと知って、むやみに殺すことは躊躇われて投降させようとしているのか。 いや、あの帝国の魔女がそんな甘っちょろいこと。 しかし、こちらが輻射波動の火花ひとつ上げて何か仕掛けようとしていると気付かれたら、コーネリアも容赦しないだろう。 この状況で撃てるのは、一発、一発の輻射波動だけ、だがそれだけでは絶対に足りない。 刻む秒針はないが迫るタイムリミット、焦りで鈍る思考、堂々巡り。 答えのでない苛立ちに、ゼロは仮面を脱ぎ捨てマスクを取り去る。 指先で小刻みにその表面を叩けば、加速する焦燥。 何かしないと。 何かいい方法はないか。 何か。 ――ちょっと待て、どうして俺はこんなに焦っているんだ? ルルーシュはふと我に帰る。 見捨てたっていいじゃないか。 これは戦争、兵士が捕まり捕虜になることはいくらでもある。 実際に、今までだってそうなった団員はいくらでもいる。 無駄に助けようとして、そこに相手に付け込まれてしまったら、元も子もない。ゼロとして、リーダーとして判断するなら、残りのメンバーを優先させて退却すべきだ。 ナマエは、確かに実力はある。 作戦の要にもなりつつある。 だが所詮、量産機のパイロットだ。 いずれはこうしてやられてしまうだろうことはわかっていたはず。 量産機に、替えがきかない、訳ではない。 それに、ブリタニア人のナマエならば、例え投降してもイレブン並に酷い扱いは受けないだろう。 しかも未成年だ。即処刑、なんてこともないだろう。正式な裁判にかけられるはずだ。 そこで、独自にスパイをしていたとでも嘘をつけばいい。 もしかしたら、コーネリアが自分と拮抗するほどの実力に目を付けて、仲間に引き入れるかもしれない。 罰か軍人になるかの二者択一で。 だが。 どんなに理由を並べ立てても。 (どうして、俺は切り捨てられない) 心の片隅で納得できない自分がいた。 喉まで出かかった「退却だ」の命令に絡み付いているのは、買い物で、生徒会のパーティで、見せたナマエの表情。 小さなことにも一つ一つ反応して、遊んでやればすぐにひっかかって、取るに足らない気まぐれの贈り物にも、嬉しそうに笑って。 傍らにあるゼロの仮面が、薄くルルーシュの姿を反射していた。 まさか、駒として見るゼロではなく、友人として見るルルーシュ・ランペルージが、ナマエを失いたくないとでも思っているのか。 (逆に考えろ……輻射波動一発で何かできることはないだろうか?) もう、作戦開始から、大分日も落ちて来た。 最近夏も暮れ始め、段々と夜にかけての肌寒さを増してきている。 さらに水攻めのおかげで、村の気温はますます冷え込んでいるだろう。 「……カレン、一発でいい! 私の合図で、輻射波動を、直に水に放て!」 「一発でいいんですかっ!? ……でも、それじゃあ、水は半分も減らないんじゃ……!」 「君の位置が、私の指示通りナマエ達のいる浮島が、見えるほどの近くにあるなら、どうにか届くかもしれない! とにかく、やるんだ!」 「は、はい……!」 カレンとの通信を切ると、ルルーシュはゼロの仮面を被り直した。 世界を変える男が、この状況を変えられなくてどうする。 しかし、本当に上手くいくかどうかは五分五分、と言った所だが。 ゼロは、――これが最後になるかもしれない――指示を出すため、ナマエを呼び出した。 ←→ [戻る] |