stage15.5 君と私は似ている どこまでも黒々とした空に、星がびっしりと輝いていた。 辺りは真っ暗、山奥で、都心部からは程遠い。 無駄な明かりが邪魔をしないおかけで、夜空の本来の姿を見ることが出来る。その明るさに驚いた。 細かい星々がふわふわ浮かんでいるように見える。星雲がまるで川の流れみたいだった。 しかし、少し肌寒い。ぎゅっと、ナマエは膝を抱いて身を縮め、上着の襟をかき寄せる。 グロースター二機の手からどうにか逃れて、脱出したコックピットは着地の衝撃で、ひっくり返って大きな穴が開いている。 そこから星空は見えている。 風がびゅうびゅう吹き込んで、一晩過ごすには辛そうだ。 でも、ナマエは通信で助けを呼ぶ気にもなれなかった。 時折受信する他の団員達の声にも、答える気にはなれなかった。 誰にも会いたくない。見つけられたくもない。このままでいい。 ナマエ・ミョウジという自分も、苗字ナマエという黒の騎士団員も、全部投げ出してしまいたい気持ちだった。 ――私は何をやってるんだろう。 「……ここにいたのか」 ざく、ざく、ざくと草を踏む音。 人の気配に、反射的に傍らの拳銃を手探りで求める。 探し当てるその前に、茂みから黒い影が姿を現した。 「指揮官が自ら動くなんて、負け戦みたいじゃないですか、ゼロ」 顔を上げれば、闇を背負って不気味な仮面がそこにいる。 ゼロだ、と認識して、ナマエは少し皮肉を投げかけてみた。 そこに含むのは自嘲。 コーネリアを捕縛できず結果機体を捨てて脱出したのだから、負け戦「みたい」じゃなくて、本当に、負け戦だ。 「君を捜す人員が、あまり割けなくてな。動かせるものはやむを得ず、何でも使わざるを得なかった。 指揮官の身体であろうと、な。何故、通信に出ない。カレンが心配していたぞ」 「少し、一人になりたかっただけです」 ゼロに助け起こされて、壊れたコクピットから出ると、風はひゅうと冷たく足の間を撫でていった。 同時に、吹き込んでくる湿った草の匂い。 土の匂い。 「頑なだな、君は。少しばかり任務に対して。今回の単騎での作戦、実のところ、私は君に断られると思っていた。危険すぎると」 「頑なにならなくて、どうします」 ナマエは静かに言った。 任務だけじゃない。 与えられたチャンスを完璧にこなしてみせなくては、何にしても道は開けない。 目的は、達成されない。 そうでしょう? 「確かに、な」 ゼロの言葉に少しだけ滲んでいる、笑い。 仮面にマント、いつもの彼の派手な恰好でさえ、濃い闇に溶けて見えづらい。 湿り気を帯びた空気と一緒に沈んでいる。 ただ、声だけが鮮明にある。 「では、ナマエ、それ程まで君を突き動かしているものは一体何だ?」 「それは」 躊躇いはなく、きっぱりと告げた。 「復讐です」 ――無意識だったが、その言い方はまるで宣戦布告のようだった。 「奪われた日本のためか、それとも大切な人のためか」 「どちらもです。ありきたりだ、とか、陳腐だ、とか言われても構いません。実際、騎士団の入団面接の時にも言われましたし。 でも、私には、それだけ。それだけなんです。ただ」 「……だが、だからこそ、普遍なのかも知れない」 ゼロが小さく呟く。 「そのために、君は手段も、任務も選ばないという訳か」 「はい。私は、自分で選んだ『黒の騎士団』というやり方を――信じていますから」 「似ている、な。君と私は」 え、とナマエは小さく声を漏らす。 確か、前にスザクにも同じようなこと言われたっけ。 デジャヴめいた違和感に思わず息を呑む。 目の前のゼロは急に踵を返した。 その背中が「もう戻ろう」と暗に告げている。 一人でいたいとは言ったものの、一度人に会ってしまったら置いて行かれるのも何だか嫌で、ナマエは慌ててゼロを追い掛ける。 ←→ [戻る] |