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Stage8 穴がったら
『そんな、私に気をつかわなくていいよ。デートじゃあるまいし』

何の気なしに言ったつもりだった。
だが、ルルーシュに指摘され、はっとした瞬間、どくり。
ナマエの頬に血潮が、一気に流れ込んだ。
それこそ激流のせきを切りったように、血管というラインを削らんばかりに轟々と暴れ出す。
ただ、その流れは、冷ややかでなくひどく熱い。

どうしよう。きっと顔真っ赤だ。恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。ばかだ!
「デート」の三文字が、無意識に染み付いていて、思わず口にしてしまったのだろう。
まるでノートの文字が裏写りするみたいに。
今日一日友達にからかわれっぱなしだったから。


「……ナマエ? どうした? 大丈夫?」

「……あー……あ、あのさ、そういう事じゃなくて。いや本当、そんなことこれっぽっちも考えてないし!」

「?」


一生懸命否定しようとするも、出て来る断片的な言葉にはまるで説得力はなく。


「と、友達に何だりかんだり言われちゃって! なんか刷り込まれちゃったみたいで! だから、違うくて、本当」


ああ、何か、一緒に出かけただけで勘違いする、そう言う阿呆女に思われた気がする!
ていうか絶対そう思われた!
うわぁあぁぁあ。
穴があったら入りたい。もう、そこに埋まってしまいたい。そのまま土に還りたい。


「ナマエ、大丈夫?」

「う、うん、気にしないで! 絶対気にしないでお願いだから!」

「……」

「むしろ、忘れてください……お願いします……うー……」

手をこすり合わせて懇願するナマエ。
しかし次の瞬間、それは何の脈絡もなく響いた。


「……………………ぷっ」

「……ぷっ?」


ルルーシュの口から、貴族顔に相応しくない音が零れ出た。
噴き出した? 彼が? ルルーシュ・ランペルージが?
そう気付いて、ふと、ナマエは我に返る。


「いや……ごめんごめん、何かさ、面白くて」

「面白……」

「瞳孔開いてるよ」

「えっ!?」


ナマエが思わず両手で目を隠すと、ルルーシュは更に笑い出した。
何がなんだかわからないまま、指の間から彼の様子を覗く。
その破顔ぶりは、教室などで見慣れている澄ました態度からは想像できない程で、あぁ、この人ってこんなに笑うんだ――と驚いてしまった。


「ごめん、ナマエ。全部冗談だよ、冗談」

「は、はぁ……」

「からかっただけ」


そんな風にあっけらかんと言われると、何だか穴を開けられたみたいに気が抜けてくる。ホッとしたような、がっくり疲れたような。


「あんまり反応が面白くて、つい」

「つ……ついで許されたらブリタニア軍はいらないんだよ」

「古いね」

「ああー……もう、あたふたして損した。
めがっさ損した。こちとら純粋純情なんだから……」

「本当ごめん。ま、これで、待たされた分はチャラってことで」


何だそら、とルルーシュを睨み付けるとやんわりと微笑み返される。
青空をバックに、それはまるで透けてしまいそうな程綺麗で。


「うー……うん、まぁ、許さないことも、ないけど」



自然と、ナマエはそう言ってしまうのだった。
何か掌で遊ばれているような気がしないでもない。


「それじゃ、そろそろ行こうか。ナナリーには、この前会っただろ?」

「うん」

「アクセサリーとか買ってあげたくてさ、見立ててくれると嬉しいんだけど」

「おけー。まかせて」


一悶着あったものの、ようやく、ナマエとルルーシュは、商店街に向けて歩き始めた。




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