黄昏に舞う紅
「ん…」
肌寒さを感じて、アキラはふと目を開けた。
「ここ…シキの部屋…?」
眠ったままの頭を動かして、あたりを見回してみる。
シキの様子を見にここへ来て、泣いて――どうやらそのまま眠ってしまったらしい。
「…」
泣き疲れて眠るなんて子供みたいだと自分を恥じながら、ベッドから起き上がる。
時計を見れば、もう直ぐ夜中の二時を回ろうとしているところだった。
「ん…?」
ぱさっと音を立てて、ベッドから何かが落ちた。
なんだろうと拾い上げてみると、それはベッドに敷いてあったカバーではなく、クローゼットにしまってあった厚手の毛布だった。
いつの間に出したのだろうか…。
「…」
寝る前のことを思い出そうとしても、思い出せない。
寝ぼけながらもクローゼットから引っ張ってきたのか?それにしてはクローゼットは綺麗に扉まで閉まっている。
だいたいいくら寝ぼけたからといって、クローゼットから毛布なんて持ってくるだろうか。
少なくとも、アキラに夢遊病の類の病気はない。
「…あ」
悶々と考え込んでいると、ふと部屋にシキがいないことに気付く。
「シキ…?」
慌ててベッドから飛び降り、全ての部屋を探し回る。
車椅子はあるし、刀だって…当然ある。
まさかと思って玄関に向かえば、鍵をかけておいたはずの扉の鍵が開いた状態になっていた。
「な、んだ?」
妙な冷や汗をかいて、足もとを見ると――そこに、シキの靴はなかった。
「…ッ!」
心臓が大きく跳ね上がる。
刀を手に掴み、転びそうになりながらも勢いよく外に出る。
「シキッ!」
今までシキが一人でいなくなるなんてことは、一度だってなかった。
いつもアキラが側にいたし、シキは歩くことや生きる上での最低限のことは出来るが、自ら進んで外に出るようなことはしなかった。
「はっ、はぁ…」
そんなに走っているわけでもないのに、焦っているせいか息が詰まる。
まだ降り続いている雨が身体を冷やしていくが、そんなものに構っている暇はない。
「…っくそ!」
視界が悪いせいもあり、なかなかシキを見つけることが出来ない。
気がつけば、昼間散歩に来た遊歩道の街灯に立っていた。
「シキ…」
シキと行ったことがあるところは粗方探してみたが、どこにもシキの姿は見当たらなかった。
今日この場で襲われたこともあって、シキの身に何かあったのではないかと、不安が募る。
「どこに…」
取り乱して高ぶった神経を落ち着かせ、ほかにシキと回った場所を思い出そうと集中する。
「…」
深く息を吸い込んで思考を巡らせていると、いつからいたのか、背後から複数の気配がした。
じっとこちらの様子を窺い、息を潜めている。
「…こんなときに」
苛立っているアキラは勢いよく振り返り、背に負っていた日本刀を抜刀した。
ただでさえ気が立っているのだ。襲い掛かってくるようなら、昼間のような情けは一切かけない。
――容赦なく切り捨てる。
「少し待って下さい」
「…!」
低い声がして身構えれば、目の前にスーツを纏った男と、その男の部下らしき者たちが意味ありげな笑みを浮かべながら近付いてきた。
「誰だ、アンタ」
強い口調で問えば、男はやれやれと肩を竦め、警戒心むき出しのアキラから一定の間隔をとって止まった。
「私は国の者です」
それくらい分かる。そうでなければアキラ自身、こんなに警戒などしない。
国の者が纏う、独特のにおいがするのだ。この男からは。
「…何しに来た」
昼間の奴らとは違う男の出方に、アキラは刀の切っ先を地に向ける。
「シキという…あの廃人を引き取りに参りました」
「なんだと?」
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2009/4/23
クローゼットは閉めても、玄関は閉めない。それがシキティー
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