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黄昏に舞う紅

血を思わせるような、綺麗な紅い瞳。
射竦められるような眼光を放っていたそれは、今は虚ろな瞳。



悦びに目を細めることも、怒りに燃えることも、哀しみに瞳が揺れることも、そんな感情が表れることはもう二度とないのだろう。











黄昏に舞う











静かな空間。穏やかな雰囲気。
そこに煌めく一本の日本刀。


それを器用な手つきで扱い、アキラは早々に刀を鞘へと納めた。
小さく息をついて椅子から立ち上がり、アキラは隣の部屋で呆けたように窓から外を眺めている男に静かに声を掛けた。

「また、外を見てるのか?」

「…」

その問いに、応えはない。
紅い目をした男――シキは、ただ虚ろな瞳を外に向けているだけだった。

「――返事がないのはいつものこと…だからな」

ため息をついて、側にあった車椅子にシキを座らせる。

「夕日が綺麗だ。散歩でもするか」

窓から差し込む淡い朱色に目を細めて、返事をすることはおろか、頷きもしないシキを連れて部屋を出た。





*****




シキの乗った車椅子を引きながら表へ出ると、秋の澄んだ匂いを纏えた空気が、アキラの身体をひんやりと包み込んだ。



「…」



――あれから。
あれから二年の歳月が過ぎた。
トシマから抜け出して、シキと追われながらもやっとの思いでここまできた。
今でもシキの命を狙う者もいるが、それもだいぶ数が減ったといえよう。
今まで沢山の者達が刺客としてやって来たが、大抵の敵はアキラが全て倒してしまう。




シキの刀で、戦うことも忘れたシキを庇いながら。




別に、戦うことに対して特別“嫌悪”というものは感じなかった。
もとよりトシマにいたのだから、当然といえば当然なのだろうけど。


それでも、最初の頃はシキを庇いながら戦闘をするというのは、どうにも苦しい思いをさせられた。
戦いを重ねるごとにそうして戦うことにも慣れ、今では大抵の敵は倒すことが容易になった。

「…」

遊歩道にある紅葉したもみじが目に飛び込んできて、ふと足を止める。
木を綺麗に飾っているものもあれば、地に降りて赤い絨毯を作っているものもある。

「これ…」

綺麗な光景に目を奪われながらも、足もとに舞い降りたもみじを一枚、手に取る。

「シキの眼みたいに紅い…」

黄昏に透ける色は艶やかで、熟れたかのような真紅の色を放っていた。
その色が異様に懐かしく感じられて、シキと初めて遭遇したときの記憶の断片が、頭の中に甦る。




剣が甲高く啼き、火花のような烈火が散る。
弾む息遣いに伴い、互いの心音までもが聴こえそうになるくらい研ぎ澄まされた感覚。
紅い瞳に覗き込まれると飲み込まれそうになり、自然と気分が高揚した。


他者に初めて抱く、真の恐怖や憎悪。
ケイスケが死に、何もかも投げ捨てた自分に、新たな居場所と存在価値を与えてくれたのはシキだった。


散々酷いことをされて、心と身体をぐちゃぐちゃに掻き混ぜられた。
従わなければならないという絶対的な所有と、それに対する自分の中の屈辱感。
何故ここまでして他者に屈しなければならないのか、何故飼い慣らされなければならなかったのか――。




シキにどんな思惑があったのか、シキは自分に何を望んだのか。






どうして、アキラを選んだのか。






それがずっと解らなかった。
今でも解らないままだが、それはそれで仕方のないことなのだと、アキラは思う。
どんな理由であれ、それがたとえ歪な形であっても、シキがアキラを救ってくれたことはまぎれもない真実だったのだから。








――ジャリッ









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2009/1/19
  一話目はここまでで…!(汗

  
  




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あきゅろす。
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