僕の初恋の初恋。
地味で根暗な僕の初恋は実らない
あれは今でも忘れられない。
甘いルックスに、スポーツときたら運動神経ピカイチ。外見良しの中身良し。
全てを兼(か)ね備えた、いわゆる完璧な人間。
地味で根暗、おまけにイジメの対象である僕とは真逆なタイプだ。
この先もずっと、僕の存在に気づくことすらないだろう。
最近では気づかれない方がいいのかもとさえ思うようになってきた。
だって、まかり間違って彼にまで嫌われるようなことがあったら
僕は、生きていけない。
高校に上がっても、彼の周りには常に大勢の人がいる。僕にはただ、その様子を遠くから見ていることしかできない。
イベントがあるごとに今日こそは、今日こそはと自分に言い聞かせるけれど。いつもそこ止まりで明日を迎えてしまう。
我ながら情けないのだが、中高一貫校の私立に通うことに決めた動機にも、彼が深く関係している。
小学校の頃から成績優秀な彼ではあったが、勉強に関しては受験が面倒だからと言って近くの一貫校を志望してやると冗談混じりに友達に言っていた。当然、ぼくもそれを遠くの方から聞いていた。
合格通知を目にしたときは、正直思った。
そんな陳腐(ちんぷ)な動機でよく受かったもんだな、と。
その頃は彼の存在そのものが僕の全てだと本気で思っていた。
当然、高校最後の年を迎えてもなお、その気持ちは変わっていない。
敢(あ)えて後悔することがあるとすれば、それは二つほど。
一つ、気を緩めて彼の斜め後ろに座ってしまった、今この瞬間だ。
売店から戻ってきた彼の後ろ姿をチラリと一目し、僕は黙々と今日限定のシュークリームを頬張った。
財布の中身を確認しているから多分、同じものを食べるのかな。
彼、甘いものが大好きだから・・・。
「─────い、おーい。もしもーし」
「・・・ぁっ、・・・は、はいっ」
「何お前、時差すげぇんだけど」
「・・・すみません」
「フッ、すみませんって。俺はお前の上司かっ。そんなことよりさ、それ─────」
あ、笑った。
信じられない。これは夢なのだろうか。
あの神崎(かんざき)くんが僕の前で笑ってる。
─────笑ってる。・・・笑っ
「─────あっ、多満(たま)ちゃん!シュークリーム、ナイス♪お礼に今度ご飯連れてってあげるねぇ〜」
「いいけど、私のロッカー少し片付けてよね。蓮のものでいっぱいなんだから」
「あっ、バレてたぁ?」
あぁ・・・行っちゃった。
多満ちゃん、ね。
詳しくは知らないけど、多分今の彼女さん。お気に入りなんだとか・・・。
知ってる。3ヶ月も前から友達に話してるからね、羨ましいよ。
付き合いだしてからというもの・・・
やたらスキンシップは激しいし、ラブラブオーラ全開の二人。何よりスカートの丈(たけ)が短すぎるんじゃない?って彼が聞くと、終(しま)いにはチュッチュ、チュッチュとまぁ。
ほんと、羨ましい限りだ・・・。
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