春を待つ君に 恋焦がれて(1) 厳しい寒さが続く中、書類を片付け終えたその日の夕食後には、休暇を取ってこいと屋敷を追い出される始末だ。 毎度のことながら、私ってほんと懲りない。 我ながらにそう思う。 短く一息吐き捨てると、急いで屋敷を後にした。 待ち合わせていた喫茶店に着くと、彩吹は珍しく入り口の横でマフラーの中に顔を埋(うず)めていた。 「マナ!おかえり、マナ・・・」 「ただいま、イブ」 正直、中で待っていてほしかったけれど。何にせよ、この前のことがあったわけだから・・・。 「コレ、岡さんから。マナに去勢の意味で受け取ってほしいって」 「あ〜、ありがとうって言っておいてね・・・へへッ」 アイツはこの子になんてことを言わすんだ! 「マナは犬飼ってないの岡さん知らないのかなぁ」 あ〜・・・。 「マナ?!どうしたの?」 可愛すぎて辛いよ・・・。 イブの家に着くまでの間、ひたすら呪文のように自分に言い聞かせた。 着いたら我慢部屋だと。 そんな私の努力を知りもしないで、彩吹はやたらと嬉しそう。 はぁ〜、長い一日になりそうだ・・・。 リビングに入るなり、ソファに座って一緒に借りておいた映画を見よう、と手を握られた。 嫌な予感はしたものの、あまりに眩(まぶ)しいその笑顔に負けて、ソファに腰掛ける。案の定、恋愛ものだ。始まるなり二人の熱い抱擁(ほうよう)。その間、彩吹は私の傍(かたわ)らで、ぷんぷんとフェロモンを放っている。 重症だ。 どっと疲れた映画鑑賞の後は、夕食の準備の時間だ。 いつも通りに仕込みに入ろうとすると、彩吹が隣でエプロンを被っていた。 「エプロン・・・買ったんだ」 「うん!貸してぇ、包丁はぼくがやる」 「いいけど持ち方は絶対」 「猫の手でしょ?わかってるって」 結局、危なっかしくて彩吹からは一時(いっとき)も目が離せなかった。 風呂に関しては、背中を流してあげるとしつこく誘われたが、自分が何もしない保証がないことには首を縦に振ることはできない。 一方、彩吹から見ればせっかくのふたりきりの時間なのに、今回も舞菜に帰られてしまうのではないかと内心ヒヤヒヤしていた。 今日はとことん舞菜を甘やかそうとあれこれと作戦を練っておいたのに、思うように事は運ばなかった。 残ったものはただ一つ。 ベッドの下に隠しておいたそれに手を伸ばして、ぎゅっと右手で握り込む。 [*前へ][次へ#] |