春を待つ君に 邪険な風(2) ストレスが溜まってきているせいか、ここ一週間ほどは水分補給のように煙草を吸っている。 油断をすれば、これでもかってくらいにあの汚(けが)れのないまっすぐな笑顔を想い浮かべていた。 はぁ〜、かなり重症だ。 案の定、机の上には山積みになった書類といくつかの封筒が置かれていた。 とりあえず封筒の中の書類に目を通し、手配を進めたところ、一週間後には例の仔が屋敷にやってくる。それまでには何としてでも左側の書類は終わらせたい。そして、面倒な右側はもう一週間で片付ける、つもり。 頑張ると言っていた一週間は、気がつくと飛ぶように過ぎてしまっていた。 執事に頼んで開けてもらった一室がようやく片付いて、軽い身体検査が行える部屋として用意し終えたところだ。 耳を澄(す)ますと、ペタペタと聞き慣れない足音が歩み寄ってくるのが聞こえてくる。 あ、来た来た。 部屋に入ってきた彼は、潔癖症の青年が好みそうな風貌(ふうぼう)にはとても見えなかった。 細身ではあったが、拍子抜けするほど体の至るところに生傷が耐えない、その上裸足だ。 「・・・あ〜、とりあえず座ろうか」 「・・・」 表情一つ変えることなく、用意した椅子に浅めに座っては、淡々と指示に従う。 ん〜、素直なんだか、無愛想なんだか・・・。 「おじさん、医者でもないのに何でこんなとこにいんの?」 「お、おじさんって・・・こう見えても、まだ二十歳そこそこなんだけどなぁ」 「じゃあ名前、何つーの?」 なんて可愛げがない仔なの・・・。 まぁ、歪んだ性格の彼にはお似合いなのかもしれない。 「もうおじさんのことはいいから、こっちの服装に着替えてくれる?そこのカーテン 使っ─────」 て、もう着替えてるし・・・。 半袖のゆったりとした服装に着替え終えると、彼は再び椅子に浅く腰掛けて、片方ずつ腕を診(み)ていく。 一見、生傷など見当たらなかったが、袖口を捲(まく)った瞬間。 「これ・・・どうしたの?!」 普段、服を着ていては隠れてしまう上腕部から肩にかけて、無数の切り傷が散りばめられている。 「知りたい?・・・フェチだよ。前の飼い主、起伏(きふく)が激しくてねー」 軽く口角を上げて、何の抵抗もなく話を聞かせてくれた。 全て聞き終えた後、体の隅々を確認したところ、彼の言う通りの場所にそれが深く刻まれている。 これは大変だ。 できる限りミイラと化しないように包帯を巻いてはみたものの、上腕部と腹部はほとんど隠れてしまっていた。最も酷かった下腹部の辺りのことは、とりあえず書類に記述しておくだけにした。 「これで少しは傷も癒(い)えるでしょう」 そう言って書類にペンを走らせると、彼がぼそりと口を開く。 「そんなことより中、早く取ってほしいんだけど」 ─────え・・・? [*前へ][次へ#] |