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春を待つ君に
愛しいキミが吹かせた風(1)


パタン、と扉が閉まる柔らかな音で目が覚めた。
ゆるゆると目を開けると、ぼんやりと霞む視界のピントがゆっくりと合わさっていく。
目に映り込んだ愛しい彼の姿に、心地良さを感じながら見つめると、椅子に掛けておいたシャツを着た。振り返ってこちらに背中を向けた際に、そこに散りばめられた無数の爪痕に大きく目を見開く。

くしゅん!とくしゃみが出ると、舞菜がベッドサイドからペットボトルと見慣れたいくつもの錠剤を取り出し始めた。
「おはよう、彩吹。今朝の分の薬、昼になる前に飲んでおこうか。体・・・起こせそう?」
言われた通り、むくりと重い体を起こすと、下腹部に鈍い痛みが走り、あちこち関節を広げられた痛みが痺(しび)れのように残っていた。

痛い、けど・・・これは幸福な痛みだから、嬉しい。

目の前に差し出された薬を受け取り、軽く手を伸ばした際に体の中が疼(うず)く感覚に、手元が小刻みに震え出す。
「・・・っ」

「彩吹?・・・貸してごらん」
呼びかけに応えないその様子を見兼ねて、舞菜は躊躇(ちゅうちょ)することなく、小さな手のひらで転がるそれを口先で挟み、器用に口の中へと運び込む。それに加えて水をたっぷりと口の中に含ませてく。
あっ、と驚きに零(こぼ)れ出た小さな声を奪うかのように、優しく顎(あご)を掴まれ、唇が塞がれた。口に流れ込んでくる水が口の端を伝って、ぽたりと床に落ちる。

「頼むから薬は欠かさないでいて。また1ヶ月も入院なんてしたくないでしょ?」
「・・・えっ、なんで知って」
「また起こしに来てあげるから、それまではゆっくり休んでて」
綺麗な顔が笑顔を作って、切なげな瞳で見つめてくる。
そんな一瞬の表情でさえ、彩吹は見逃さなかった。

「待って!行かな─────ッ!」



部屋から出ていく舞菜の背中に手を伸ばし、ベッドから床へと足を運んだ瞬間。
膝(ひざ)から折れるように、体が崩れ落ちていた。
慌てて駆け寄ってくれる舞菜に支えられて、立ち上がろうと試みるも、両足が思うように立たせてくれない。
「足が・・・力入、らない・・・っ」
迷いもなく優しく抱きかかえられ、有無を言う間もないほどに容易にベッドまで運ばれた。

「しばらく安静にしてなさい」
そう言い残して、顔を上げたときには舞菜は部屋を後にしていた。

マナってば、こういうときはいつも子供扱いする。
昨日はあんなだったくせに・・・。

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