兄弟のはなし
揺れる想い(1)
週末は寝るだけ寝てやる、って思ってたけど。もう寝れんわ、って思ったのは土曜の夜、というか日曜の朝か。
ケータイの時計を確認したら、もう2時を回っていた。
腹減って死にそう・・・。
まぁ、当然か。まる2日何も食ってねぇし。
だるい体を引きずるように冷蔵庫に向かうと、テーブルに顔を伏せたまま寝息を立てている秋人がいた。
テーブルの上には、ラップをかけた皿が何枚も並べられている。
こういうときばっか優しくしやがって・・・。
暗いからよく見えないけど、匂いですぐにわかった。
オレの好きなもんばっかじゃん・・・。
ラップを捲(めく)って一摘み。
「料理もできるのかよ・・・。はぁ〜、マジムカつく」
摘み食いを繰り返すこと10分。
3分の1ほど食べ切ったところで水を取りに、振り返って冷蔵庫に向かう。
喉を鳴らしながら口の中を潤してく。
引き続き、摘み食いをしようと振り返った瞬間。
「──────!」
背後からオレの様子を眺めていたのだろうか。静かに見下ろすその顔は、少し呆れた表情を浮かべている。
ふいに伸びてきたその手の動きがスローモーションに見えて、目の前の視界がぐらりと揺れた。
あのときと同じだ。
そう思って、迷わず拳を握って顔面目掛けて振り上げるも、あっさりとその腕を掴まれる。
「放せっ──────っ?!」
思いっきりその手を振り払おうとしても、そうはさせてくれない。
そのままもう片方の腕も捕まえて、冷蔵庫を背に縫い止められる。
それから、いとも簡単にオレの両手首を片手で拘束された。
自由になった手でTシャツの裾(すそ)から覗く素肌に軽く指を這わしてく。触れられた箇所が甘く痺(しび)れて、無意識に身を捩(よじ)る。
じりと見つめてくる熱い視線から逃れようと、オレはぎゅっと目を閉じた。🔴
「や、ぁ・・ッ」
一瞬動きを止めたその手が、Tシャツから出ていくのに気づき、固く瞑(つむ)っていた目を恐る恐る開ける。
突然触れてきた指が優しく涙の跡を拭(ぬぐ)って、みっともなく身体が跳ねた。
そのまま涙の跡を辿るように唇が降りてくる。
オレは引きずられるように、ずるずると冷蔵庫に背中を預けて崩れ落ちていた。
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