兄弟のはなし
気だるい土曜の朝
スラリとした長身の女性が、高いハイヒールを鳴らす。
一歩、また一歩と真っ暗闇の中でボクの方に足を進めて。あ、と思ったときには既に後ろへと素通りされていた。
ボクを気に留めることなく歩いていくその後ろ姿を見ていたら、ずずっと啜(すす)り上げている自分がいる。
・・・母さん?
コンコン、というノック音で目が覚めた。
こういうときって、きっと。
一睡もできないとか、
食欲が失せたとか、
そういう類(たぐい)のことが起きる、はず。
なのにオレが、まず始めに頭に浮かべたのが
ア゛〜、頭痛ぇ〜
だった。
何でだろう?ショックじゃないと言ったら嘘になるけど、不思議と大丈夫。扉も窓も全部閉めて、頭から布団を引っ被ってすべての音を遮断した状態だけど。とりあえず大丈夫、生きてるから・・・。
──────コンコン。
もぞりと布団の中から片方の手を伸ばして、手探りで辺りを確かめる。
ようやく見つけたそれを音のする方へと投げつけた。
コンコ──────バン!
見事にドアに命中した枕が、鋭い破裂音を放った。
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