兄弟のはなし
本音と裏切り(1)
目の前に差し出されたのは、万札が二枚と千円札が四枚だった。
どういう風の吹き回しか今月の昼食代をいつもより多めに渡された。
戸惑いながらも、秋人からそれを受け取ると
「言ってくれれば必要な分は渡すから」
だなんて。
秋人は昔からそうだ。
両親が離婚することになった中二の夏。お金にだらしないオレを見兼ねて、秋人は父が高校に入るまで出すと約束した生活費とバイト代を切り崩して少しずつ貯金していた。
兄でありながら高校に上がるまで一切お金の管理をしてこなかった自分が心底情けない。
翌日にはオレは秋人に声を掛けるなり壁に縫い付けられていた。
何でだよ!仲直りしたばっかじゃん!
眉間に深い皺を寄せて、秋人の言葉を待った。
すると、何か言いかけた言葉をぐっと堪えて俯いたように見える。
「・・・秋人?」
ひやりと冷たい空気に息が詰まる。
その手をゆっくりと狭めて、冷たい指先が頬を掠(かす)めてく。
あ、と思ったときには、首筋を這うその指がオレの髪をそっと掻き分けて、何かを確かめるように触れられた。
「っ・・・は、放せよ」
押し返した身体はびくともしなくて、あっさりと引き戻される。
唐突に首筋に唇が押し付けられて、強く吸われた。
「ッてぇよ!ちょ、やめッ」
松井ちゃんが付けたのと同じ場所に、秋人が痕を残す。
まるでそれを塗り替えるみたいな行為に、ゾクリと身体が震えた。
秋人の熱い舌が首筋を這って、また耳元に辿りつく。
「──────てつ」
伸びてくるその手の動きがスローモーションに見えて、目の前の視界がぐらりと揺れた。
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