兄弟のはなし 平凡な月曜の朝 バタン、という音で目が覚めた。 ゆっくりと重い瞼(まぶた)を開くと、こちらに背を向けて秋人がTシャツに袖を通す。その間、背中の至るところに残された引っ掻(か)き傷に、オレは目を見開かせた。 「あ、起きた?体は平気か?」 「・・・。」 振り返った視線と自分のそれがぶつかるも、どんな顔をすればいいのかがわからず俯(うつむ)く。 あれから結局。 オレは何度声を掛けられても、返事を返すことができないまま、週末を終えてしまった。 我ながら情けない・・・。 けど、一日中ひきこもってたおかげで、オレなりに頭の整理ができていたらしい。 珍しく早起きして学校に向かったのも、多分そのおかげだ。 少し遅れて帰宅した。 理由はもちろん、先週の帰りに聞いてしまった教室での会話の件だ。 うだうだ考えてても仕方ない。 ここはスパーっと別れてやる。 そう思ったら、急に肩の荷が下りたみたいだ。 「おかえり」 「・・・ただいま」 久しぶりに返した言葉に、秋人がピクリと視線を上げた。 相変わらずのオレは、無意識にそれを逸らす。 ふと、テーブルの上に広げられていた無数の書類に目をやった。手元には、以前に見たあの黄色いノートと家賃に関するものが1枚。それを囲むように、赤で所々に丸の打たれたチラシが並べられていた。 「それ・・・」 「ん?あー、これ?かぼちゃ切ってたら、こうスパーっと」 「・・・ぷっ、だっせぇの!」 吹き出すオレに安堵(あんど)の表情を浮かべながら秋人が笑い返す。 秋人のこと見直したかも、 ・・・ちょっとだけだけど。 [*前へ] |