[携帯モード] [URL送信]

僕を取り巻く全てには
飼われる身の在り方(1)


それから一週間ほど経った頃には少年もこの屋敷の中での決まりを少しずつではあるがわかってきていた。毎日執事に案内されて向かう食卓でのテーブルマナーも、始めは四季の真似でしかなかったが、人並みにはなってきている。

「昨夜はよく眠れたかな?」

朝食に向かうと、珍しく四季が椅子を引いて少年を待っていた。
今まで一度も言葉を交わしたことがなかったことに違和感を感じながらも、少年は差し出されたそれに座る。
目の前のテーブルにワイングラスを置いて、彼はボウルの中で氷水に冷やされたワインボトルを取り出した。

「ワインが口に合わない人にはノンアルコールがおすすめだよ?今日のメニューにぴったりな白ワインは僕が保証するよ」

白に少しの黄色がかかったそれは、流れるように注がれたグラスの中で踊った。

綺麗・・・。

「ね?綺麗でしょ?」

ここまで丁寧に用意されたものには試飲をして一言言うべきなのだろうと察した少年はワインを口に運ぼうと考えてはいたが、ワインの飲み方までは確認していなかった。

とりあえず変に思われないように少年はワイングラスを握った。
気づくと背後から四季がぐっと近づいてきて、グラスを握る手の上から手本を見せるかのようにそっと彼のそれが重ね合わせられていく。

「こうして、2回グラスを回すんだ。・・・そう、上手」

白ぶどうの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
今まで飲み方がよくわからなかったため、部屋に戻ってから水で喉を潤していた少年はパチパチと弾ける炭酸に思わず見惚れていた。

綺麗・・・。

瞬間、背後に残る四季の気配に違和感を感じて振り返ると、袖口の隙間からくっきりと残った痕(あと)が目に飛び込んだ。

「ね?綺麗でしょ?」

一瞬、自分の首筋に向けられていた視線に、四季は満足気に薄ら笑みを浮かべた。



未だに慣れないことが一つ。
食後に執事に案内される部屋までの道のり。10分程しか歩かないのだが、歩く床も、細かい装飾が施された壁も、各廊下にぶら下げられたシャンデリアも、通り過ぎるいくつもの扉までもが全て統一されており、見分けることができない。

そんなことを考えながら少年は執事の後を歩いていた。
今日も同じ時間帯に青年の待つ応接間まで向かっている。てっきりそう思っていたのだが、開かれた扉の前には初めて目にする大きなベッドが一つ。その周りにはぎっしりと本の敷き詰められたシンプルな本棚にサイドテーブルが一つ。向かいの壁に置いてあるのはドレッサーだろうか。上部には大きな鏡が備え付けられている。その隣でいつもと変わらぬ様子で花束を見つめるバスローブ姿の青年がいた。

何故だろう。・・・落ち着かない。

「悪いけど後で持ってきてもらえるかな?」

青年が執事にそう告げると、「ごゆっくりどうぞ」と一礼をし、速やかに部屋を退室した。

[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!