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僕を取り巻く全てには
屋敷の主人(あるじ)(2)
広々とした食卓で二人きりにされたこともあり、しんみりとした空間に緊張が走った。
黙々と食べ進める四季を前に、少年はテーブルに置かれたいくつものフォークやナイフに困惑した。

当然だろう。
少年は一度もフォークを目にしたことも使ったこともないのだから。

とりあえず目の前で食事を進める四季を真似るようにそれらしく少年はフォークとナイフを手に取った。
キー、と耳を塞ぎたくなるような鋭い不快音が部屋全体に響き渡った。食事から目を離すことなく、一瞬手を止めた四季は気に留めることなく食べ進めていく。
再びカタカタと鳴り出した不快音に四季は思わず軽く鼻で笑っていた。



食事を終えて初めて感じる満腹感に浸りながら少年は部屋の隅で執事を待ち続けた。。

「坊ちゃんが準備を整えられたようなので、応接間までご案内させて頂きます」

そう言われて先ほどと同様に少年は執事の後をついていく。
大きな扉を開けてもらい、中に入ると部屋の奥の窓際に、小さな花束に手を添えて微笑むひとりの青年が立っている。何も言わず深々と一礼をした執事は速やかに退室した。

しばらく突っ立ったままでいた少年は、じっと青年を見つめる。
透き通るような細い白銀色の髪がさらりと風に流れた。至ってカジュアルな白いシャツには袖口に黒いボタンと襟元から下りるシンプルなリボンが施されていた。視線を落としていくと、シャツのデザインに合わせた黒のハーフパンツ。足元には、白のラインの入った膝下までの黒い靴下に、黒のドレスシューズ。何よりその格好に見合った凛とした幼い顔立ちに少年は思わず息を飲んだ。

そんな彼の視線が花束からこちらに移り、少年の頭のてっぺんからつま先までゆっくりと撫で回していく。じわりと染み込んでくるその感覚に身体は小刻みに震え出す。

一歩また一歩と、知らぬ間に少年との距離を詰めていった。気づいたときには既に青年は目の前まで歩み寄ってきていた。

前触れもなく伸びてきた長い指に少年はギュッと固く目を瞑(つむ)った。

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あきゅろす。
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