僕を取り巻く全てには
屋敷の主人(あるじ)(1)
目が覚めると、ぼやけた視界のピントがゆっくりと合わさる。見知らぬ白い天井にはベッドを囲むようにしてカーテンレールが敷かれていた。
「──────お目覚めはいかがですか?」
カーテンの向こうから聞こえてきた声に驚き、少年は慌てて上半身を起こした。
少し遠慮がちに開いたカーテンの前で一礼をしたのは、穏やかな表情をした執事だった。
かっちりとした黒いスーツの中にはカジュアルな白いワイシャツを着込んでいる。
この人は誰?ここはどこ?
僕はなんでこんなところにいるの?
次から次へと湧き出てくる疑問に少年は混乱していた。
「では、食事の準備が出来次第、お呼び致します」
そう言って再び一礼をし、彼が部屋から退室すると、落ち着くことが出来ないままの少年は辺りを見回す。
慌ててベッドから降りようと体の向きを変えると、自分の両足には包帯やテーピングの処置が施されていたことに気づく。その他にも、両手首や腰の周りにまで丁寧に包帯が巻かれていた。
さっき出ていった彼が手当てをしてくれたのだろうか?
少し高さのあるベッドから降りようと、慎重に両足を床に着くと体が酷く痛んだ。勢いよく立ち上がろうと腰を上げると、少年はそのまま膝から折れて床に尻もちをついた。
暖かい。
そう思い、少年は床に頬を付けたまま、両足を抱え込んでしばらくじっと目を閉じた。
食事の準備が整うと、執事は少年を食卓まで案内した。
長い廊下には、いくつもの華やかなシャンデリアが吊るされており、左右の壁には少年の姿がくっきりと映し出されるほど綺麗に磨き上げられている。
襟元、袖口とボタンの白さは深い青で彩られた上下でより一層際立って見えた。
今までベージュ一色の古びたものを着ていた自分には不釣り合いな格好にしか見えなかった。
ようやく辿り着いた大きな扉を開くと、少年が今まで見たこともないほど美味しそうな料理が食卓にたくさん並べられていた。
大きなテーブルの向かいの席には、自分より少し年上の大人びた顔立ちをした少年が座っていた。自分と色違いの深い赤を着た彼の食器が並ぶ横には、「四季(しき)様」と書かれた札が置かれていた。
少年も四季と同様に席に着くと、自分の席には「みなと様」と書かれた札が置かれていることに気づく。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言い残して執事は部屋を退室した。
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