僕を取り巻く全てには 鳥籠のとり(1) あの恐ろしい夜以来、少年が部屋から出てくることはなくなった。 執事は細心の注意を払い、決して部屋の中に入ることはせず、各指定時間にノックをし、扉の前で要件を伝える。服装等に関しては、小包みに入れて置いていたが、開けられていた形跡は一度も見られなかった。 「お着替えのほうをお持ちしました」 少年は、今日も布団を頭からすっぽりと被って、声を掛ける執事に応答することはない。当然だろう。あんな醜態(しゅうたい)を晒(さら)しておきながら見せる顔がない。 見られたくない理由は、あの晩の出来事以外にもあった。意識を取り戻してすぐに下半身に違和感を感じた。洗面所で確認したところ、自分の中に異物を入れられたようだった。動く度に中で擦れる感覚に加え、奥へ奥へと迫(せ)り上がってくるそれに耐えることで精一杯。定期的に作動する振動が一度始まると、呼吸すらままならない。着替える余裕なんてあるわけがない。 静まり返った真夜中の屋敷を嘲笑(あざわら)うかのように月は空を照らしていた。 窓際から見えるその景色は、朝昇る太陽とは比べものにならないほど美しくて神々(こうごう)しい。 部屋に完備されたティーセットの中から角砂糖を一個取り出す。指先で丁寧に転がしながら唇をなぞっていく。歯先で挟(はさ)み込んだ後、口内でじっくりと遊ばせる。 薄っすらと重い瞼(まぶた)を開けると、視界の隅に見慣れない物が映っていた。 とりあえず上体を起こそうとするも、全身が固定されていて身動きが取れない。 「あっ、起きた?」 隣から聞こえてきた声に聞き覚えがあった。 手足に縛り付けてあったベルトを外すその顔は、あのスラリとした背の高い男性だった。 「名前、みなとっていうんだってね?素敵な名前じゃない」 「・・・」 てっきり返事を返してくれると思いきや、会話のキャッチボールに長い間ができただけだった。 「あー、そんなことより何でここにいるの?って顔してるね。えーっとね、話せば長くなるんだけど・・・少し顔色が良くなったから外のベンチで話そうか」 そう言いながら彼は、何故か左腕に繋げてある点滴を丁寧に取り外した。 [*前へ][次へ#] |