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SoulCalibur's Novel
追憶の讃美歌
深い緑を生い茂らせ、木々は静かにその身を佇ませている。木々は幾重にも広がり、ドイツの南西部にその存在を示している。ドイツに住まう人間はこれをシュヴァルツ・ヴァルト――黒き森――と呼んだ。


東の空が紺から青へと変わりつつある。夜が明け、朝が訪れた。街の方では人々の活気が賑わいを増していても構わない頃だが、黒き森は朝が訪れても静かに立っている。その中で古びた小屋がぽつりとあった。
小屋の中を覗けば、テーブルの上は酒瓶やグラス、あらゆる食器が散乱している。さらにテーブルに突っ伏して寝ている者や、椅子にもたれかかっている者、そのまま床に酔い潰れているであろう者までいた。
これを見れば男たちが宴を開いていた事になるが、その静寂の中、一人の影がもぞもぞと動き始めた。
右の前髪を左へと流したショートの金の髪に深緑のセーター。長い足を覆う白のズボンを履き、膝下は茶色の革のブーツを履いている。その少年は、頭痛のせいか少し頭をおさえながら、呻いた。少し飲みすぎたかもしれない――とさえ思う。
酔いの残る身体を動かして、なんとか椅子から立ち上がる。目をこすりながら物音を立てないように移動した、その時だった。
「――ジーク?」
後方からした声に彼――ジークと呼ばれて少年は振り向いた。彼の名を呼んだ少年もまた、テーブルに突っ伏しさ体勢のまま此方を見ていた。
「悪い…起こしちまったな」
「…これから何処へ行くんだ?」
「酔いを覚ましてくる。ちょっと飲みすぎただけだ」
ジークは静かに扉に手をかけた。きぃ…とかすかに軋む音を立てる。
扉を開けると、黒き森特有の風と空気が流れ込んできた。ジークは森の新鮮な空気を肺いっぱいに満たす。
――伸びをすると、彼は森の中へ歩き始めた。


――どれくらい歩き続けただろうか。
いつの間にか酔いは覚め、気怠かった身体は少しずつ軽くなり、元の状態に戻っていた。寝起きに感じていた頭痛も、すっかり治まっている。完全に自分の調子を取り戻したようだった。
そろそろ仲間のところへ戻ろうとした時、彼の耳に何かが聞こえてきた。
「……?」
遠く、かすかに人の声が聞こえたような気がした。ジークはそのかすかな音を頼りに聴神経に集中させる。その音に導かれるようにして、歩きだした。
近づくにつれて、それは、はっきりと聞こえるようになった。
集中力をほどき、瞳を開けると――木々の中に建物があった。木々よりも高くその身を主張し、尖った屋根には十字架が掲げられている。罪を犯した者に背負わされる絶対の運命。また、かつてユダヤ人の救世主と謳われた神の子が磔刑にされたとされる十字架が。
「あれは――…教会?」
―こんな場所に教会なんて、あっただろうか…―
かすかに聞こえた声は教会から讃美歌が流れていたからだ。いつの時代も、人は神を崇め、敬う心を忘れてはいない。かつて、父がそうだったように。
「Vater(父上)――…」
ぽつりと、唇から父上という言葉がこぼれ落ちる。この世にはいない人の名を。

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