[通常モード] [URL送信]

SoulCalibur's Novel
No Way,No LineW
キリクは聞いて、そしてはっとした。
―真喜志は俺たちを忘れてしまっている。それに…今は俺たちの知っている真喜志を思い出せないからだ…―
「――…すまない」
しばらく沈黙が流れ、波の音だけが二人の間を奏でている。思い出したようにキリクは口を開いた。
「真喜志、また此処へ来てくれるかい?渡したいものがあるんだ」
「渡したいもの?」
「あぁ。あれは真喜志が持っててもらわないと多分困るだろうから」
「…分かった」
「決まりだね。じゃあね、真喜志」
真喜志は走り去っていく青年の背を静かに見送っていた…。


――翌日。
昨日と同じ停留所にいると、キリクがやってきた。
「よかった。ちゃんと来てくれたんだね」
「一体、何を渡したいってんだ?」
キリクはそうそう、と言いながら懐からそれを出す。二本の棒を鎖でつないだ東洋の武器。真喜志がかつて愛用していたヌンチャクと呼ばれるもの。
「それは…――」
「前の戦いの時、落ちていたんだ。壊れていたから、修理に出して直してもらったんだ。この武器は真喜志の武器だから、返しておくよ」
大切な人には大切なものをいつまでも持っていてほしい。そして、それを何があっても手放してほしくはない。キリクはそう思っていた。
キリクが差し出したヌンチャクを受け取ろうとして、真喜志の指がそれに触れたその時だった。
「――――!!」
彼の瞳に、かつて殺されてしまった仲間たちの死体が映った。積み上げられた死体を巨大な身体が見下ろしている。何かに気付いたようにその人間――いや、人間と呼ぶにはそれはおぞましい姿をしていた――は、こちらに視線を寄越す。
…顔が見えたのは、一瞬。そこで真喜志の意識は現実へ呼び戻された。
「――………」
ヌンチャクを見つめる。これが魅せた映像は、今は亡き仲間たちの悲痛な叫びか、それとも。…仇を取りたいと願ったかつての自分の記憶の一部が反映したのか。
よくは分からないが、何故か全てに一歩近付けたような気がした。
「――……真喜志?」
キリクが心配そうに声をかける。
「…なぁ」
「え?」
「もし…邪剣とあの化け物を倒したら、俺はお前の知ってる俺に戻れるのか?」
少し驚いた顔をしていたが、微笑を浮かべて
「戻れるよ、きっと」
と言った。その言葉を聞いて、真喜志は唇の端をつり上げた。
「俺は、行くぜ」
キリクに背を向けたその時。
「――真喜志!」
キリクが呼び止める。そして続けた。
「…もし、真喜志の記憶が戻った時には、また一緒に旅をしてくれるんだろう!?」
「当然さ、約束する」
「でも…本当に一人でいいのか?」
しばらく間をおいて、真喜志。
「これは俺だけの問題だ。お前は関係ない…だから行く」
「そうか…」
真喜志は歩きだす。遠ざかる背中に、キリクは叫んだ。
「必ず何処かで会おう、真喜志」
彼はキリクに背を向けたまま、二、三度手を振る。
振り返らないその背に、約束と再会を背負って。

〜前へ〜〜次へ〜
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!