SoulCalibur's Novel 今遥かな空の下 ・・・俺が聞いた声は、粋のある男の声だった。俺の闇に光を、希望を入れてくれた。 彼‐ジークフリート・シュタウフェン‐はゆっくりと、目を開けた。 白い天井が目に映る。 ―・・・部屋の中?― 窓から細い一筋の光が、床を照らして明るくなった。小鳥たちの鳴き声が聞こえる。 「う・・・ん・・・」 傷だらけの身体を何とか痛みが走らないように起き上がらせる。いつも以上に、身体が重く感じて。 「あ・・・・」 彼は自分の身体を見て気付いた。包帯が巻かれ、傷口が塞がれているのである。しかし、ソウルエッジから受けた傷、余計に広がっていた。 「・・・・・」 やはり、ソウルエッジからの呪いからは逃げられないのだろうか。 そんな考えを巡らせていたその時。 ドアを開ける音が聞こえた。 「よぉ、目が醒めたようだな」 黒い髪を伸ばした男が現れた。男が持っていたのは、湯気の立つスープとバターの甘い香りが漂うパンがそれぞれ二つ。四角いトレイの上にそれらを乗せて、両手で持ちながら、右足で扉を閉める。 笑っていたと思う。あの瞳は。どことなく、父さんに似ていた。 男は髪を束ねていた。黒い瞳と黒い髪、口調のなまりからするとジークはすぐに東洋人だと理解した。 カタリ、とテーブルの上にトレイを静かに置く。男は振り向き様に、 「おっと、自己紹介をしないとな。俺は御剣だ。御剣平四郎。よろしくな」 ―それが、俺と平四郎の出会いだった― 「俺はジーク。ジークフリート・シュタウフェン。俺、一体どうしてたんだ・・・?」 スープを受け取る。まだ湯気が立っていた。さまざまな野菜が浮かんでいるそれは、熱さとともに全身に染み渡りそうだった。 ジークは一口、スープをすすった。 −あったかい・・・− 母さんも、こんなの作ったっけと思い出す。 「うまいか?」 ジークの寝ていたベッドに、御剣は腰掛けた。 「・・・あぁ」 御剣はパンをかじりながら言った。 「そうだ、おまえの質問に答えなくちゃあな。倒れてたんだよ、森で。とても綺麗だったんで、旅していた俺はそこを通ろうとしていたんだ。そしたら、ジーク・・・だっけ?血を流して倒れてた」 ジークは、はっとした。 ―思い出した・・・。森の中で歩いていたら、仇討ちの奴がやって来て俺を殺そうと・・・― ジークは、ナイトメアとして世界を恐怖に陥れていた。彼は幾人の人を殺してきた。何年かかけて自我を取り戻したものの、ナイトメアが殺した者の仇討ちとして、狙ってくる者が彼を追ってきているのだ。 そして。 ジークを抹殺しようと、集団でその者達が襲って来たのだ。戦いに耐え切れず、彼は力尽きて倒れ伏したのだ。 ―そこを通りかかった平四郎が助けてくれたのか・・・― 俺は平四郎に感謝しなくちゃならない。と、自分の中にある何かが語りかけてきた。 御剣は窓を開けながら――、 「おまえが目を覚ますのを、ずっと待っていた。もしかしたら、死ぬんじゃないかって、そう思うこともあったさ・・・」 空を見上げて、スープをすすった。 そんな事を言われたのは平四郎が初めてで――、今までにない想いが、俺の中でたくさん溢れていた。 「・・・・・っ・・・!」 溢れ出す想いの代わりに、涙が出た。 ジークは声を殺して泣いた。それを見ていた御剣は、焦りの表情になる。 「!?ジ、ジークゥ?」 ジークは拳で涙をぬぐった。 「何でも・・・ない。涙が、勝手に・・・」 御剣は小さくため息をついた。 ―こいつは、人に助けられた事が、今までになかったんだろうな・・・・・― その時、彼の開けた窓の外で、鳥が飛び立った。鳥が飛び立っていく姿を見ると、彼の口の端が僅かに上がった。 「なぁ、ジーク」 「何?」 「外に出るか?」 「外?」 ジークは外に目をやった。 「あぁ、部屋の中にいても気分が優れないだろ?外に出て、背伸びすりゃ悩みだって消える」 「そうか・・・」 そして、彼はベッドから降りた。 「じゃ、行く」 「行く、か」 「あぁ、でもアレ食べ終わってからな」 ジークは食べかけのパンとスープに指をさした。 「俺もそうする」 二人は勢いよく、それらにがぶりついた。 朝の光を浴びながら、俺達はいろんな話をした。平四郎とは気が合うらしく、話が弾んだ。 生まれ故郷の事、旅の事、そして・・・家族の事。 こんなに楽しい思いになったのは久しぶりで、こんな出会いは滅多にないと思った。 空は遠く、手を伸ばしても届かない。つかめもしない。外に出た彼らは、風渡る丘の上で街並を眺めていた。 「すごい・・・!」 ジークは丘の上から見える景色に言葉を失いそうになった。 「こんな景色、初めてだ・・・!」 やっぱりな・・・。御剣は思った。 ―ジークは、何かに縛られていたんだ。多分・・・『孤独』か、はたまた『呪縛』か・・・― ジークの金の髪が風になびく。気に入ったらしく、しばらく眺めていた。 「・・・平四郎・・・」 「・・・何だ?」 「・・・なんていうか・・・その・・・」 ジークは口ごもった。素直な一面があるからだ。それは誰にも見せない性格。 「助けて・・くれて・・・」 「何だよ、さっさと言っちまえよ」 「助けてくれて・・・・・ありがとう・・・」 言った。ジークはようやく言えたと、確信した。 その瞬間、彼の身体の中で何かが風と一緒に滑り落ち、抜けていったような気がした。 自分自身に力が湧いてくるのを感じた。 「それを言いたかったのか?」 御剣に聞かれ、ジークは頷く。御剣は笑った。というよりは、吹き出した方に近い。 「気にするこたぁねぇよ。こういう事には慣れてんだ」 「え・・・・・!?」 「おまえみたいなヤツは俺は初めてだ」 「・・・・・・」 御剣は真剣な表情になった。 「俺は『そうるえっじ』を目指しているんだ。どうしても勝てない相手がいてよ・・・。『そうるえっじ』でそいつを斬って勝ちたいんだ」 「・・・・・そうなのか・・・」 「とても強かった。だから、それを求めている」 ジークは街の彼方を見つめた。 ―御剣は俺を助けてくれた。俺はその恩を返さなくてはならない・・・。ソウルエッジにも、目的がある・・・― 空を見上げた。雲が流れている。ジークは考えた。 「平四郎・・・」 「何だ?」 「俺・・・平四郎の事を助けてやる。助けてもらった礼もあるからな。それに・・・一人より二人の方がいいだろ?」 「そうしてもらえると・・・嬉しいんだがな」 「行こうぜ、ソウルエッジのところへ」 「本気らしいな。じゃ、明日からは旅の始まりだ」 これから始まる。俺と平四郎の旅が。 握手を交わす。二人は宿屋に戻って行った。 もう一人じゃない。 俺は信じられる。 だから、何も怖くない。 その道が、どんな旅路の果てであっても・・・。 End 〜次へ〜 [戻る] |