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闇の運命に弓引く者
闇と光の衝突



 ため息を吐いたせりあちゃんの口から呪文のような物が漏れている。空間凍結を解除する気だろうが、ボクやひとちゃんをあれこれちょっかいかけて意固地にさせるより自然覚醒を待った方が良いだろうって判断だろう。そして、せりあちゃんの右拳を左手が受け止めて、
相変わらず空間が凍りついたままだった。

「…せりあちゃん。」
「自分でかけたもの解除出来ねぇのかよ?」

 ジト目になるボクやひとちゃんに顔を赤らめて抗議してから再び解除しようとするが凍りついたままだった。

「ま、まさか。」
「そのまさか、だろーね。」
「どーした?」

 事態に気づいて顔を青ざめるのに対して、ボクやひとちゃんはのんびりしていた。

「自分がかけたものから解除するのは簡単よ。でも、他人がやったものなら話は別。」
「ってことは、」
「空間凍結しているのはあたしじゃない。
別の誰かが空間凍結をかけていたのよ。でも同じ闇(ガイア)が用事があって来たならすぐに声をかけていたでしょうね。
つまり、光(ヴァルハラ)に見つかったのよ。」
『その通りだ。たまたま凍りついた空間の中を歩き回っていたのに気づいたのは運が良かった。
様子をうかがえば、闇(ガイア)の小物と未覚醒の闇(ガイア)が2人。光(ヴァルハラ)の使命の下貴様等を滅ぼそう。』

 その声に若干の遅れ、光線が寸前でひとちゃんがよけた場所を貫いた。

「せりあ! これもやらせか?」
「まさか! 完全にバレバレなこの状況でそんな白々しい真似はしないわよ!」

 ひとちゃんの問いにせりあちゃんが否定する。確かによけなかったら、ひとちゃんが死んでた恐れがある。

「逃げるよ!」

 そう叫んで屋上に続く階段から飛び降りてまた下の階に飛び降りるを繰り返した。

「も、無理。勘弁して。」
「気を抜くな!」

 さっきまで楽しそうな悲鳴を上げて今はぐったりしているせりあちゃんを小脇に抱えたひとちゃんがせりあちゃんを叱咤激励していた。

「いや、敵が見えなきゃ意味ないでしょ?」
「でも、屋上じゃ逃げ場がないよ? 浮かびながら逃げるのって難しいでしょ?」

 ボクの言葉に詰まらせるせりあちゃん。

『だが、どこに逃げても同じだ。』
「…どーでも良いがやり口が3流の悪役だな?」
『…な、なんだと?』

 この場に響く声にひとちゃんが言うと、声に一拍の間が空いて、怒りを滲ませた声が聞こえた。諸悪の根源と認識している闇(ガイア)から悪党呼ばわりだ。怒るのも無理はない。

「そーだよね。見えない所からネチネチと攻撃してくるし、まだ覚醒してないけど覚醒したら厄介だから潰しておく。それのどこが正義の味方?」
「闇(ガイア)が正義の味方なんて言う気はねーけど、光(ヴァルハラ)も正義の味方じゃないな。」
『だ、黙れ!!』

 ボクとひとちゃんの指摘に怒りの声と共に光線がボクを襲うがヒョイとその光線をよける。

「力ずくで黙らせるのが正義の味方のやり口? 日本語が通じて無いのか、それとも君の故郷ではそれが、正義の味方なんて言うつもり?」

 ボクの言葉に沈黙が舞い降り、

『いいだろう。』

 折れたのは光(ヴァルハラ)の方だった。

『闇(ガイア)にここまで言われては姿を見せない訳にはいかない。しかし、』
「それで、勝てると思うな。」

 声はすぐ近くから聞こえた。そちらを振り向くと、サラリーマン風の青年がいた。凍りついた空間の中で動き回れる事が彼が何者かを教えていた。

「短い付き合いになるんだ名乗る必要もあるまい。」

 その言葉にせりあちゃんが呪文のような者を口にしながら前に出る。せりあちゃんと男は睨み合う。そして、

「はっ!!」

 せりあちゃんが気合いの声を上げながら放った閃光を吹き散らす男。しかし、

「のっひょぉぉぉっ!!」
「グフゥッ!!」

 せりあちゃんが大砲の如き速度でおじさんに突っ込んでいた。

「せりあ砲かよ。大丈夫かよ?」

 心配そうな表情になりひとちゃんがせりあちゃん達に近づいた時、凍りついた空間が元に戻り木々の枝達がざわめきだした。

「2人共、気絶しているだけだ。」

 2人を確認したひとちゃんが安堵の息を吐く。

「それじゃあ、この人を捨てくる。」

 ボクはそう言って、おじさんを抱え塀を飛び越えた。

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