鬼灯の冷徹 補佐官のサポーター
地獄と会議
「只今より会議を開催いたしたいと思います。司会進行は、僭越ながら私云鬼が勤めさせていただきます。
本日の会議の内容は時代の変化に対応できなくなった地獄をどうするか?
です。」
「はい!」
元気よく手をあげる茄子君を指差して問いかける。
「元気があって大変よろしい。何茄子君?」
「そんな地獄があるの?」
「あるんだよね。例えばシロ君が働いている不喜処地獄。あそこは元は法螺貝などで動物を脅かした上に殺害した人が堕ちる地獄だったけど、
今の時代、法螺貝を持っている人が少ないから動物を虐待した人が堕ちる地獄なんだよ。
他にも、石女(うまずめ)地獄。
若い獄卒達にはわからないかもしれないけど、昔は不妊の原因は女性側だけにあると思われてたんだ。
石女又は不産女。侮蔑の言葉な訳だよ。
石女地獄は産めない又は産まない女性が堕ちる地獄の上に妊娠したら血の池地獄行きだったんだ。これは、出産や月経の血が不浄という考えがあったんだ。」
「…無茶苦茶な話ですね。」
「…だから、撤廃されたんだよ。
今日も廃案すべき地獄や改善すべき地獄を探していきましょう。
まずは、ボクから。
叫喚地獄に雨炎火処(うえんかしょ)という地獄がありますよね?
あそこは要らないと思います。あそこの罪は象を酒に酔わせ暴れさせた罪だけど、今のところ、ここに堕ちた人はたった1人しかいません。」
ボクの言葉に、十王達の口から、1人いるのかとかそいつの人生に何があったとかのぼやきはあったけど反論はないみたい。
「そもそも、こんな地獄あったかな?」
「ほら! 独活の大木大王でさえも存在を忘れてるんですよ!! 必要あると思いますか!」
「…ワシの扱い酷くない? 一応、地獄の中では一番偉いんだけど?」
独活の大木大王のぼやきを無視して先を促そうとすると、秦広王が挙手する。
「内容はどうあれ、動物関連だから、不喜処地獄と統合するのはどうだろうか? それにあわせて、従業員の象も不喜処地獄に転勤してもらうことになるが。」
秦広王の提案に周囲を見回すけど、特に反論はないみたい。
「では代わりに、ソムリエ気取ってやたら酒に詳しいふりする人が堕ちる地獄ということで。」
ボクの言葉に十王達から、いらんだろその地獄も! とか、そのくらいの虚栄心ぐらい許してやれ! などの声が聞こえた。
「また叫喚地獄に関することなんですが、分別苦処(ふんべつくしょ)地獄の刑罰ですが、温すぎません? 殴られ蹴られ、獄卒に説教されるだけなんて。
一番軽い等活地獄でさえ斬る焼くは当たり前なのに、説教するだけなんて。
せめて、指全部切り落とすぐらいの事は必要ではないかと思います!」
ボクがそう言い終えると、男性の獄卒が挙手した。
「受鋒苦処(じゅほうくしょ)地獄に関する拡大解釈ですが、プレゼントを布施とみなしてもいいと思います。
………スミレのやつ。」
最後はボソリと呟いたようだがしっかりと聞こえた。どうやら、真心込めた贈り物を売り飛ばされたらしい。
「だいぶ私怨が絡んでますが、現世にあわせて拡大解釈するのは有りです。」
「あ、受鋒苦処地獄に関する拡大解釈の提案したいんですが。」
次に手を挙げたのは女性の獄卒だ。
「何でもいいと言っておきながら作った食事にケチつけた人もそこに堕ちてもいいと思います!」
「採用すべきでしょうが、逆に何がダメか聞くのも手です。」
次に挙手したのは五官王からだ。
「現代特有のオレオレ詐欺や還付金詐欺やストーカーに対応する地獄も作るべきでは?」
「良いですね。その案、検討すべきでしょうね。」
はい、検討っと。
次に挙手したのはお香さんだ。
「現世でプレイに当たるものは罪ととらえていいのでしょうか?」
「微妙なところだね。」
「でも、互いに合意の上だし罪にとらえるべきではないでしょう。」
次に挙手したのは五道転輪王だ。
「ネット犯罪等に対応する地獄も急務ではないでしょうか?」
「検討します。」
何故かボクの代わりに応対する閻魔大王。そして、次々に出される案のほとんどを検討しますだけしか言わなかった。
そして、あの方がとうとう動いた。
「では、私からは会議で検討しますしか言わない人の舌を抜く地獄があっても良いと思います。」
「良いですね。それにプラスして肉をこ削ぎ落として杵で餅つきしてからまたもとに戻してこ削ぎ落として餅つきするのを追加しても良いと思います。」
その言葉に閻魔大王は恐ろしい物を見たかのような表情で鬼灯様とボクを見ていた。そして、
「検討します改め各部署改善に努めてください!!」
とそう言ったのだった。
―――――――――――
叫喚地獄(きょうかんじごく) 日本地獄八大地獄の一つ。ここに収容される亡者の罪状は酒絡みの悪行である。
分別苦処(ふんべつくしょ) 叫喚地獄を形成する16小地獄の一つ。ここに収容される亡者の罪状は使用人に飲酒させて動物を殺害した人が堕ちる。
受鋒苦処(じゅほうくしょ) 大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)を形成する16小地獄の一つ。罪状は布施する事を宣言しておきながら実際はしなかったり、布施の内容に文句を言うことである。
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