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真・かまいたちの夜 if
11月22日午後7時



 僕が食堂のドアを開けると、何人かの視線がこちらに向いた。

「快人君。こっち空いてるよ?」

 京香ちゃんが、自分の隣の席を指差しそう言う。
僕がその席に腰を下ろしたのを見た京香ちゃんは何かを思い出してオーナーに振り向いた。

「オーナー。宿泊者が11人になって部屋が足りないので私が同室になりました。」
「11人? おかしいですね? そんなはずはないんですが。」

 オーナーは鍋を振るう手を止めずに首をかしげた。
...あ。僕も聞こうと思ってたのがあった。

「オーナー。7時のサプライズパーティーって何をやるつもりですか?」
「? 何の事です?」
「え? これはオーナーが書いたものじゃないんですか?」

思わずメッセージカードを取り出すと、口ひげを生やした初老のおじさんが口を開いた。

「私も鵜飼君が書いたものだと思っていたが。」
「私じゃないですよ。」
「まぁ、7時になればわかる事だよ。」

 何故か落ち着かない様子の池谷さんがそう言った瞬間、鐘の音が7つなる。

「7時だ。」

 誰かの言葉に辺りを見回すが何も変わった事はない。

「な〜んだ。別に何もないじゃん。」

 赤毛の派手な衣装を着た女性がガッカリした様子でワイングラスを呷った時、酷く慌てた様子のおかっぱ頭の少女ご駆け込んできた。何かを伝えたいのか口パクばかりで言葉がでて来ないらしい。

「落ち着いて。雪乃ちゃん。どうしたの?」
「お風呂に行ったら、人が倒れていて。.........早く、救急車を.........。」

 そこまで口にした雪乃ちゃんは、何かに気づいたのか漆黒の闇を写す窓の方に視線を向けた。

「あ.........あなた、誰? 誰なの?」

 そういった雪乃ちゃんはドサッと音をたて倒れた。

「大変! 救急車を呼ばないと!」
「は、はい!」

 その言葉に反応したオーナーは慌てて玄関へとかけていく。
その様を見た僕は女湯へと駆け込む。

「.........。あれ? どうしたの?」

 今時どこで売っているんだ? と聞きたくなるようなハートマーク柄のシャツを着た太った男が僕に気づいて問いかける。しかし、構っている余裕はない。その男を無視して女湯の暖簾をくぐる。

「ちょ、ちょっとそっちは女湯だよ!」

 それも無視して浴室に入る。しかし、

「あれ? 誰もいない?」

 浴室の中には整然としていて誰かがいたようには思えなかった。それどころか、脱衣所も整然と整理されていて使われた形跡がない。浴室の奥のドアを開け、露天風呂を見るがそこにも誰もいなかった。

「なんだ。誰もいないじゃないか。人騒がせな。」

 追いかけてきたのか、池谷さんもその場にいた。そして、肩をすくめて食堂に戻った。何を見間違えたのか気になったけど、いつまでもこの場にいるわけにもいかず、入り口からこちらを伺っている男の人とともに食堂に向かう。

「あれ? 雪乃ちゃんは?」
「雪乃さんは先ほど、目を覚ましたけど、錯乱して話にならないから、
そこの神林さんがマンドリンという薬を注射したらしい。」

 池谷さんの説明に僕は眉をしかめた。

「良いんですか? 医者でもないのに、勝手に注射するのは?」
「副作用のほとんど無い薬だ。雪乃君は今は看護師二人がラウンジで看病しているよ。」

 という事は眼鏡をかけた大人しそうな女の子と派手目な服の女の子はナースだったのか。人は見た目によらないといえばよいのか?

「それより困ったことになったの。オーナーが救急車を呼ぼうとしたんだけど、道の途中が雪崩で塞がっていて立ち往生してるんみたいなの。」

 京香ちゃんが、そう言った時僕はくしゃみを連発した。

「食事もまだ先だし、お風呂で温まってくるよ。」
「俺も行こう。さっきの露天風呂で冷えたらしい。」
「私も行こう。ここの露天風呂が楽しみできたんだ入らないでどうする。」

 その後、部屋からタオルをとり男湯の更衣室に向かう。更衣室で服を脱ぎ、お湯に体を沈めた。

「雪乃君が倒れた時は驚いたが何事もなくホッとしたよ。」
「本当に人騒がせですよ。」

 しばらく神林さんと池谷さんは話していたが僕は疑問に思った。女湯には誤解してしまいそうなものはなにもない。一体何を見間違えたのか?
内風呂は白く濁っていて底に何かあっても気づかないだろう。まさか。思わず立ち上がるが再び湯に身を沈める。これが真実だとしても、迂闊に女湯に駆け込むわけにはいかない。

「池谷さん。僕達は女湯に駆け込んだ時は、風呂の底まで調べませんでしたよね?」

その言葉に池谷さんはまさか、と呟いていた。

「それが本当だとしても、白河さんは何故風呂底にいる女性に気づいたんだ?
服を着ていたから、風呂には入っていないのだろう?」
「わかりません。沈みかけている所を目撃してしまったのかもしれませんし、お風呂の外で倒れた後で立ち上がってお風呂の中に倒れたのかもしれません。」

その言葉に神林さんはアゴヒゲを撫でる。

「だとしたら誰だね?」
「気になっている人はいます。赤城(あかぎ)さんです。1度もその人を見たことがありません。」
「それっぽい人なら1度見たよ。6時頃かな? 遠目だったし彼女も逃げるように外に出ていったから赤い服の人ということ事しかわからないよ。」
「いるのかいないのかわからないなんて座敷わらしみたいですね。」

冗談めかして言うと池谷さんが顔を歪めて言った。

「止めてくれ。『赤い座敷わらし』が出ると人が死ぬと言われてるんだぜ?」

そうなのか、座敷わらしって良いことを呼んでくる面のだとばかり思っていたけど違うのか。

「仮に君の思っていた通りだとしても今確かめる訳には行かない。」

神林さんは立ち上がってとんでもないことを口にした。

「さて、露天風呂にいってみるかな。」
「正気ですか?」

 池谷さんが驚いて問いかけた。

「勿論だとも。ここの露天風呂を楽しみできたんだ。」

 神林さんはお年をめされているとは思えない軽やかなフットワークで外に出ていった。しかし。


「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 神林さんの悲鳴が響き渡った。何かあると思い、僕と池谷さんで露天風呂の方に駆け出していた。そこに一人の女性が赤い防寒着を着て浴槽に浮いていた。急いで食堂に戻り、鵜飼オーナーと共に浮いていた女性を引き上げた。

「鵜飼オーナー。この人は?」
「最初にやってこられたお客様で確か赤城恵美(あかぎえみ)様です。」
「どうして、この人はここで亡くなっているのでしょう?」
「後頭部に殴られたような痕があった。誰かに殴られたんだろう。」

 僕の呟きに池谷さんが答えた。

「遺体をペンション内に隠せば誰かに見つかる恐れが高い。だから遺体を露天風呂に隠したんだろう。吹雪の日に露天風呂に入りに来る人はいないと踏んだんだろうな。しかし、運悪く雪乃さんに遺体を見られてしまった。慌てて赤城さんを男湯に隠すことにした。」
「しかし男湯に隠したところで赤城さんは見つかってしまったようだが?」

 神林さんの指摘に池谷さんが首を横に振った。

「それは結果論です。鵜飼さんの準備が手間取ってなければ今はまだ食事中で、遺体を発見されるのはだいぶ後になります。それだけ経てば状況もだいぶ変わります。」
「しかし、できるのか? 数人がかりで運ぶのがやっとなのだそ?」

神林さんがそう言ったところで、入り口から声か聞こえた。

「オーナー。警察には連絡したのですが雪崩のせいで道が塞がって来れないそうです。」

半ば予想出来ていたとはいえ、その言葉に僕は目眩を覚えていた。



食堂は重苦しい雰囲気に包まれていた。皆の目の前には鵜飼オーナーの手料理が並んでいるが誰もそれらに手をつけるものはいなかった。この場にいない雪乃ちゃんとみゆきちゃんと黒井さんを除いては。その重苦しい雰囲気を破ったのは京香ちゃんだった。

「提案ですが、犯人を突き止めた方がいいと思うの。私の考えが正しいなら私達の中に犯人がいるはず。いつ犯人に寝首をかかれるかわからないし身を守るために必要よ。」
「内部犯だと? なぜそう思うんだ?」

池谷さんの問いに京香ちゃんは予想していたようにすらすらと答えた。

「車の鍵が残されていたからよ。犯人は人を殺した。それなら、犯人は一秒でも早くこの場を去りたいはず。なのに、逃げようとした痕もない。」
「雪崩が起きて逃げられないからじゃないか?」
「思い出してよ。私達がそれを知ったのは食堂にいるときよ。その場にいないなら知りようはずがないわ。」

京香ちゃんの指摘に皆が互いの顔を見た。

「逃げよう思えばいつでも逃げれたのにそうしなかった。それは私達の中に犯人がいるからじゃないかしら?」

その言葉に神林さんが口を開いて何かを言おうとするが、結局なにも言わなかった。
一人一人のアリバイを確認していくつかの事がわかった。
まずは赤城さんらしき人を最後に見たのが神林さんで午後6時。
遠目で彼女も人目を避けるように行動していたので確実に赤城さんだと自信をもって言えない。
その神林さんは6時から奥さんのローズさんとともにラウンジでくつろいでいたらしい。30分まではオーモリ君が一緒だったらしい。30分にオーモリ君が席を立ち神林さん達も食堂に行った。そこからのアリバイはみゆきちゃん達が証人らしい。
オーモリ君はラウンジでアニメ観賞をして部屋ではブログにコメントをしていた。そのコメントを見たが、ちょっとの時間で書けるとは思えない。
鵜飼オーナーは食堂で料理を作っていた。
京香ちゃんは5時50分から食堂にいた。その10分後にみゆきちゃんとそのつれのさとみちゃんが食堂にいた。
池谷さんは僕が来る直前まで部屋で電話していた。

「この時点で疑わしいのは僕と黒井さんですね?」

僕の問いに皆が頷いた。チェックインしてから僕も黒井さんもアリバイがない。それは雪乃ちゃんも同様だが、犯人が死体を見つけたといって騒いで気絶するなんてあまりにも不自然すぎる。

「提案ですが、僕と黒井さんを同じ部屋に閉じ込めるのはどうでしょう? 部屋を釘か何かで固定してしまえば僕と黒井さんには犯行が行えません。」

僕の言葉に京香ちゃんが問いかけた。

「確かにそれなら私達は安全かもしれないけど、それで良いの?」

京香ちゃんの問いに僕は迷い無く頷いた。そして、黒井さんを説得し、一緒のは部屋に閉じ籠る。ベッドに座ってじっ考えていた。しばらくそうしていたら、ノックとともに京香ちゃんの声が聞こえた。

「快人君。黒井さん。大変よ! オーナー! 開けてください!」
「は、はい!」

京香ちゃんの言葉に鵜飼オーナーがドアに打ち付けた釘を引き抜いてドアを開けた。

「落ち着いて聞いて。みゆきさんが殺されたわ。それと雪乃ちゃんも行方不明なの。」

その言葉に黒井さんは硬直していた。

「今は皆で雪乃ちゃんを探しているところ。雪乃ちゃんがどうしてマスターキーを持っていたのか知りたいから。」
「マスターキーを?」
「みゆきさんが上着を脱がしたらポケットから出てきたみたいなの。」

京香ちゃんから状況を確認しながら1Fに降りる。そしてリビングルームにたどりついた時、僕は思わず硬直していた。なぜなら、そこに池谷さんが頭から血を流して倒れていたからだ。



「最後に池谷さんを見たのは?」
「私です。一緒に1Fを捜索していたのですが気になる事があるとおっしゃって別れて捜索していました。」

僕の問いに鵜飼オーナーが答えた。

「みゆきちゃんはどういう状況で殺されたんですか?」
「私のマンドリンを悪用されたようだ。確認したら全部盗まれていた。
盗んだそれで眠らされた上で首を絞められたんだ。」

僕と神林さんの会話が気に入らなかったのかさとみちゃんが声を荒げていた。

「すました顔して、本当はあんたが殺したんじゃないの!」
「それは無理よ。黒井さんの部屋に閉じ籠っていたのよ? どうやってみゆきさんを殺しに行けるのよ? それにみゆきさんは空手の達人よ? 正面からいったんじゃ撃退されるだけでしょ?」

あのみゆきちゃんが? 人は見かけによらないものだな。

「だからこそマンドリンを盗んだんじゃないの?」
「思い出してよ。みゆきさんが空手の達人だと私達が知ったのは快人君と黒井さんが閉じ籠った後よ。知りようがないわ。」

京香ちゃんがそういうと、さとみちゃんは鼻息荒くわめき散らしていた。

「もういい! 人殺しがいる殺人ペンションにいられない!」

そう叫ぶとどすどすと歩いて自分の部屋に閉じ籠る。
その後、神林夫妻やオーモリ君と黒井さんも部屋にこもり、後に残されたのは僕と京香ちゃんと鵜飼オーナーだった。

「鵜飼オーナー。警察に連絡してください。」

その言葉に鵜飼オーナーは1Fに降りた。僕は京香ちゃんをつれて自分の部屋に閉じ籠った。

「大変な旅行になっちゃったね。」

僕がそう呟いた時、京香ちゃんの表情が暗くなる。

「雅也さん、もうじき子供が産まれるってすごい喜んでいたのに。」

そう呟いてから拳をぎゅっと握っていた。

「快人君。絶対に犯人を捕まえよう!」

京香ちゃんの言葉に力強く頷いたその時、耳をつんざくような絶叫が辺りに響き渡った。

「京香ちゃんはここにいて。僕が戻ってくるまで誰もいれちゃダメ。」

そう言ってから、部屋の外に出る。あの声は下から聞こえた気がする。
下に降りると血の海の中オーモリ君が沈んでいた。手当てしようにも致死量を越える血を流しているのは明らかだ。やがて、オーモリ君は一度大量の血を吐くと痙攣して動かなくなった。それが、オーモリ君が皆の目の前で息を引き取った瞬間だった。

「鵜飼オーナー。警察に電話してください。」
「………だめです。電話線が切れてるみたいです。」
「あ、じゃ、さとみのスマホをどうぞ。さとみの語呂合わせで3103でパスワードが解除されるから。」
「そうか、もしかしてあれも………。」

何かに気づいたのか鵜飼オーナーが呟いてからスマホを操作する。わざわざ離れたところで、話をしてからスマホをさとみちゃんに返した。

「だめです。除雪作業が進んでないみたいです。朝までは警察は来れません。ネットを使って外部に救助を要請してみます。」

 鵜飼オーナーはそう宣言して自室に閉じ籠った。

「僕達はリビングで待機しましょう。」

 僕の言葉にいつの間にか姿をくらませていた黒井さん、僕達の中に犯人がいるんじゃないかと疑っている、さとみちゃんを除いて皆がリビングに集まった。

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あきゅろす。
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