第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の3
いや、それを「女性」という枠で、括っていいものではない。ユアンのファンクラブの会員が、特別なのだ。一種の新興宗教。会員の面々は、特殊な一面を有している。洗脳――それに等しい。
ユアンは、特別だ。
彼は、カイトスとして優秀。
将来の目標。
そして、彼に好かれたい。
勿論、彼女になりたい。
そして、結婚を――
会員の者達は、勝手に夢を語っていく。しかし、それを否定し馬鹿にする者はいない。皆、一緒だから。
「また、食事に行こうか」
「いいのですか?」
「僕は、構わない」
「で、でしたら……」
「ランフォード君との食事は、実に楽しい。それに、頼み易いという部分があったりするからね」
「そ、そうですか!」
その言葉に、声が裏返ってしまう。ユアンに、そのように見られていたとは――イリアは、天に昇る気分だった。これはアカデミーの卒業と就職先が決まった時より、嬉しい内容だ。
女として生きているのだから、一度はそのようなことを言われてみたい。そして理想の相手と一緒になり、女の幸せを満喫したいと思っている。しかし、イリアの恋愛は難しい。原因のひとつは、両親が口煩い。そして、もうひとつは……これこそ、最大級の悩みであった。だが、心に仕舞う。
「以前は、安い料理だった。今度は、レストランに行こう。ランフォード君は、コース料理は好きかな」
「その前に、はじめてです」
「そうか。それなら、一緒に行こう」
「嬉しいです」
「それなら、良い店に行かないと」
「楽しみにしています」
過去に、何人の異性と食事をしたことがあるのか。無論、イリアは気になってしまう。好きな相手の過去を知りたいと思うのが、人間の心理。ユアンの全てを知りたいという思いは、暴走を招く。現に、イリアはそう思っていた。そして口を開けば、それを聞いてしまいそうだった。
それにより懸命に、感情を抑え付けていった。何より、暴走は自身を悪い方向へ持っていく。しかし、何も話さない訳にはいかない。その為、ユアンの好みについて訊ねることにした。
「好き嫌いは、何でしょうか?」
「馬鹿は、嫌だ」
「馬鹿?」
「そう、馬鹿だ。それは、知識面ではない」
「他は、何でしょうか」
「そうだね……特に、好き嫌いというものはない。先程言ったように、馬鹿が嫌いで苦手だ」
イリアは同調するかのように、何度も頷いていた。しかし、イリアが考える馬鹿とユアンが考えている馬鹿の本質は、大きく異なっていた。だが、イリアはそれに気付いていない。気付いていないからこそ、ユアンも自身と同じような意見を持っていると、心から喜んだ。
この事柄から、問題定義に発展してしまうということは有り得ない。それは相手がユアンという心優しい人物ということと、今それを突っ込む理由が存在していないからだ。しかし、簡単に片付けられる問題ではない。イリアは、カイトスの道に進む。だが、今では――
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