第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の1
一生に一度の大事。
イリアは今、それが自身の身に訪れていた。
相手は、ユアン・ラドック。憧れの人物と同時に、尊敬の眼差しを向けている。しかしそれは、一人ではない。クラスメイトを含めファンクラブの会員全員が、恋愛感情を抱いている。
一体、誰を選ぶのか――
ユアンの寵愛を受ける人物が、気になってしまう。
その為、今回の出来事は特別。それによりイリアは、一人の女として恥じない服装をした。
だから――
母親の言葉が、辛かった。
全ては、ユアンに認めてほしい。その一身で、突き進む。そして、イリアは待ち合わせの場所へ向かう。
◇◆◇◆◇◆
人生で、はじめての体験。これは、今までの中で一番の衝撃的な出来事だった。その為、心臓は激しく鼓動している。落ち着け――何度も言い聞かせるが、心臓は更に鼓動が強くなっていく。
ファンクラブの者達がこのことを知ったら、嫉妬心を抱き一斉に攻撃を仕掛けてくるだろう。会員の全員の本心は、どす黒い。女の醜い感情を前面に出し、相手を殺してしまう確立が高い。
愛している人物が、奪われてしまうというのなら――これは危険な思想であるが、これは事実。しかし人間は、綺麗な一面だけで生きてはいけない。だからこの黒い感情は、人間としては正しい本質。
だが、一人の人間の為に何故――
しかし、イリアは気付いていない。
自分が、危険な道を辿ってしまうことを。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
「少し、遅くなりました」
イリアは、ここぞとばかりに破顔を作る。何事も、第一印象が大事。それに、相手はユアン。猫を被るという表現は適切ではないが、母親に酷い言葉を投げ掛けた人物と同一と考えれば、完璧に猫を被っている。その為イリアは、実の母親よりユアンを優先したいと考えていていた。
認めて欲しい。
頼って欲しい。
その一身で、動く。
どうして遅刻してしまったのかは、その理由は話さない。無論、ユアンも聞こうとはしないが理由はわかっていた。今まで多くの女性を見てきたので、イリアの心の中を簡単に見抜いてしまう。それに、表情で察することができた。彼女もまた、多くの女性と一緒だと。
「それは、構わない」
「今日は、何処へ行くのでしょうか」
「以前、約束をしたことがあったと思うが、そのことを決めないといけない。仕事の関係で、遠くは無理だが」
「ラドック博士と一緒なら、何処でも構いません。皆も文句は言わず、同じことを言うでしょう」
「そうか……助かる」
今回は、イリアが無理を言っている。それをユアンが特別に叶えてくれるのだから、我儘を言うわけにはいかない。それに、確実に嫌われてしまう。そのことを認識しているイリアは、素直に受け入れていく。それに、ユアンと一緒なら何処へでも行く。無論、他の者達も一緒だ。
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