第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の10
そして、評価を下してほしい。
または、愚痴。
決まった肝心の就職先について。
其処は、ラドック博士が勤めている。
そして――
少々自己中心的な内容が含まれる文面であったが、受け取る側も大体はわかっていた。それに相手が幼馴染ということで、ソラは仕方ないという気持ちも持っていた。しかし、今回の文面で今後の展開が変化していくことは知らない。
一通りそこまで打ち終わると、送信する。そして再度、違う内容のメールを打ちはじめた。次の相手はソラではなく、友人宛であった。例の旅行について、いくつか質問があったからだ。
此方に、愚痴は必要ない。その為キーボードを打つ表情が、明るいものへと変わっていた。父親――いや、両親より友人達。イリアにとっては、其方の方を大切にしたいと思っていた。
付き合うのなら、楽しい方がいいに決まっている。たとえ両親がどのように考えていても、イリアには関係ないことであった。それに就職をしてしまえば、一人暮らしも可能になる。しかし、今のところ人生設計は特に考えていない。ただ、理想の場所で仕事ができるのが嬉しかった。
それに今は、旅行に行くことを考えないといけない。短い日数になってしまうが、今回は思いっきり楽しもうと思っている。ストレス発散に、鬱憤晴らし。今回の旅行は、それに最適であった。
イリアは質問内容を打ち込むと、相手に送信する。ソラ同様、すぐの返信は期待していない。だがどのような回答が帰ってくるか、とても楽しみだ。イリアにとって旅行は、今からはじまっていた。
その時、ベッドに置いてあった携帯が鳴り出す。イリアは慌てて携帯を手に取ると、着信相手を確認する。
「やった!」
画面に表示された名前に、思わず言葉が弾んでしまう。そう相手は、ユアンからであった。
「このような時間に、すみません」
電話に出たと同時に、イリアはすまないという気持ちを言葉に表した。だが返ってきた返事は、笑い声。唐突なその声に、イリアは間の抜けた声を発してしまう。すると更に、笑い声が響いた。
「ご、御免なさい」
『いや、構わないよ』
いつもと代わりない優しい声音に、頬を真っ赤に染めてしまう。やはりユアンは、普通の人間とは異なっていた。一般の人間が持っていない何かを持っているような、そんな雰囲気がある。だからこそ、イリアはユアンを慕う。慕い「この人物なら」と、尊敬の念を持つ。
『で、何か問題があったのかな?』
「いえ、そのようなことは」
『着信があったからね。まさか、卒業ができないとか? いや、ランフォード君なら大丈夫だろう』
「卒業に関しては、大丈夫です。卒論も合格を貰いました。ただ、今回はラドック博士にお願いがありまして……」
『願い?』
「はい。実は――」
厚かましいとわかっていても「友人の為」という理由から、ユアンに例のことを頼んでいく。アカデミーに在学中、何かと世話になった者達。特にあの二人から守ってくれた恩義は、感じていた。
突然の提案に、無論ユアンは驚いていた。しかし断る理由がないということで、快く引き受けてくれた。優しい心遣いユアンに、イリアは反射的に裏返った声音を発してしまう。それは、狂乱というより発狂に近い声。これにより、ますますユアンの心情が良くなっていく。
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