第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の6
だが、卒業後は生活が一変する。就職先で働き、様々な研究を行う。それが夢であったが、何故か空しいものが感じられた。それがどのような意味合いなのか、イリアはわかっていない。
しかし、望んだ世界。其処に迷いは、存在しなかった。
「二週間後――」
食事の最中に決められた卒業旅行は、二週間後ということであった。急遽決められた内容の為に、遠くに行くことはできない。だが、仲が良い者同士。近場での旅行であったとしても、楽しいことは間違いない。
何より、あの二人がいないことは天国に等しい。リゾート惑星でバカンスを楽しんでいたとはいえ、同行していた者達の性格が最悪なので何ら感情は湧かない。しかし、今回は心の底から楽しめる。イリアにとっては喜ばしい内容であったが、旅行に関して一番大事なことを思い出す。それは、金の問題。今回もそれで悩むことになろうとは、思いもしなかった。
楽しい卒業旅行をしたい。しかし、金がない。それなら素直に諦めるしかないが、イリアは嫌な思い出だけを残したくはなかった。その為、何が何でも旅行に行きたいと思っている。
両親から借りる――だが、卒業旅行に行ったばかり。不機嫌な表情を見せるのは間違いない。だからといって、ソラに頼むことはできない。卒論の一件でも断られたというのに、今回は流石にプライベートの内容すぎる。こうなれば、一か八かで両親に頼むしかなかった。
イリアは大きく頷くと、駆け足で自宅に向かった。
自宅に到着したと同時に、父親が寛いでいるリビングに向かう。そして友人との約束を話し、金を貸してほしいと頼み込む。すると、父親の眉がピクっと動いた。その反応にイリアは、渋い表情を浮かべる。
「この前、行かなかったか?」
「今回は、別の友人と」
「友人が多いな」
その言葉に無言で頷くと、父親の顔色を伺う。先程とは異なり、真剣な表情を浮かべていた。
「何処へ行く」
「そんなに遠くには……別の惑星には、行かないわ」
「そうか」
それを聞いた途端、安心したのだろうホッとした表情へと変化した。すると今までの会話を聞いていた母親が、奥から姿を見せる。そして友人との卒業旅行について、意見を言い出した。
「卒論は、終わったの?」
「一昨日、合格を貰ったわ」
「卒業は?」
「大丈夫。単位は取ってあるし、出席日数も足りているわ」
何とか金を借りようと、必死に食い下がる。だが母親の表情から察するところ、卒業旅行は反対の様子。その大きな理由は、遊び呆けているということであった。いつまでも、学生気分ではいられない。素早く気持ちを切り替えなければ、科学者として生活できないからだ。
母親は長く夫の姿を見ているので、カイトスの苦労や辛さを理解している。無論、イリアもそれを理解していた。だが、学生と本職が別。いくら同等に扱われていたとはいえ、多少の差は存在した。そのこと気付いていないイリアは、珍しく母親の意見に異論を唱えていた。
「遊べるのは、学生のうちだけだもの」
「そう言って、就職後も遊ぶのでしょ?」
「就職をしたら、研究で忙しくなるわ」
だからこそ、今のうちに遊んでおきたい。それがイリアの考えであったが、簡単に受け入れられるものではない。学生のうちに――そのように言って、何度遊びに行っていたか。流石にその時は金の催促はしなかったが、このように何度も重なると「行っていい」とは言えない。
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