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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の19

「俺が一番」

「ずるいぞ」

「いいじゃないか」

「じゃあ、私が――」

「それこそが、抜け駆けだ!」

「それなら、ジャンケンで決めるといい」

 ユアンの言葉が、口論を起こしていた者達の言葉を止める。そして同時に全身体を振るわせ、互いの顔を見合う。

 ユアンの低音の声音には、想像以上の威力が存在する。言葉だけで相手を殺害できるのではないかという錯覚に陥るほど、言葉が鋭く刃物に等しい。それに、どす黒いオーラが混じる。

「よ、よし……」

「い、いくぞ」

「おう!」

 円を作るように頭を付き合わせると、ジャンケンを開始する。一回目二回目――徐々に、敗者が消えていく。

「よっしゃあ!」

「く、くそ」

「俺から質問!」

「……仕方ない」

 決勝戦で負けた人物は不満たっぷりの表情を浮かべているが、ユアンを目の前にして文句は言えない。しかし負けた者は、二番目に質問をすることができる。一番最悪なのは、最初に負けた人物だ。その者は自身の運の無さを嘆いているのか、テーブルにうつ伏していた。

 だが、誰もその者を助けることはしない。

 そう、運がない方が悪い。

 ただ、それだけの理由だった。

「質問です」

「どうぞ」

「博士は、どうして今の道を選んだのですか?」

「あっ! それ、私が……」

「早いもの勝ちだ」

 勝者の余裕というやつか、一番で質問をする権利を得た者は、不適な笑みを浮かべていた。ユアン・ラドックという人物を目の前にした瞬間、彼を尊敬している者は思考を狂わす。それにより、普段では発言しないような言葉も平気で発する。そして、盛り上がっていった。

 ユアンは、彼等を宥めていく。

 そして口を開き、どうしてこの道を選んだのか語る。

 簡略的に説明をすると、父親の影響。

 そう、ユアンの父親もカイトスとして仕事を行っていた。それも、同じ分野だったという。

 それを聞いたイリアを含め全員が、目を丸くしてしまう。そして、ざわざわと驚きが広がる。

「す、凄いです」

「そうかな」

「はい。凄いです。この分野は難しくて、多くのカイトスの憧れだったりします。それを簡単に……」

 その言葉に、ユアンは苦笑してしまう。そもそも、この世界は「簡単」の言葉が当て嵌まらない。先程、ユアンは「努力と根性」の二つの単語を使った。それは、身を持って知っているからだ。

 ユアン自身、簡単に今の地位を得たのではない。学生時代、必死に勉強をしていた。毎日徹夜を繰り返し、知識を吸収していく。まるで、何かにとり付かれたように知識を貪った。

 生来の天才と呼ばれていても、裏で血の滲むような努力を行っていた。そして、ユアン曰く「本当の天才」は、存在しないという。歴史の中に、天才と呼ばれている人物は数多に存在する。

 しかし彼等も、何かしら努力をしている。そうでなければ、天才だけで物事が上手くいくわけがない。

 そう、ユアンは淡々と語る。

 その間、他の者達は静かに聞いていた。


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あきゅろす。
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