第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の16
「どれくらい、時間が掛かるのですか?」
「早朝から、作っていた」
「そ、なんなに……」
目の前に並べられている料理の数々の量は、半端ではない。オードブルからメイン。それに、デザートまで用意されている。それを全て一人で作ってしまったとは、皆目を丸くする。
「どうすれば、料理が上手くなるのですか?」
「やはり、努力だ」
「努力ですか……言葉に、力があります」
ユアンは、生来の天才と呼ばれている。あらゆることを簡単にこなしてしまい、特に努力をしていないように思われていた。しかし、誰もユアンの裏を知らない。彼は日々、努力をしている。ユアンは、努力している素振りを表面に出そうとはしない。よって、誰も知らない。
当初、ユアンの料理の腕前はいい方ではなかった。野菜を切るのもままならないで、切った後の野菜のサイズはバラバラ。それに焼き物をすれば、それ自体が墨と化してしまう。しかしユアンは諦めることなく、何回も練習をした。それにより、腕前はプロに近付いていく。
努力と根性。
言い方や考え方は古いが、実に的を射ている。
努力の前に、下手なプライドは存在しない。ユアンの考え方は、そのようなこと。よって、毎日のように練習に励んでいた。その結果が今出ているだけあって、ユアンは褒められることではないと思っている。それに彼自身、同じように努力を続ければいいと考えていた。
それを淡々と語っていく。
無論、周囲は聞き入っていた。
「が、頑張ります」
「期待している」
「ラドック博士のような腕前になるのには、どれくらいの時間が掛かるのかしら。遠いでしょうね」
「でも、努力でしょ」
「そうね」
ユアンの言葉が浸透していっているのか、徐々に考え方が変わっていく。こうなると、クラスメイト全員がユアンの為に料理を作ってくる可能性が高い。それだけ、ユアンはカリスマ性が高く多くを惹きつけていく。無論、一瞬の出来事。それほど、簡単に落ちてしまう。
「話もいいが、食べて欲しい」
「はい」
「全部、食うぞ」
「母親の料理より美味い」
「あっ! それ、同じだ」
普段、どのような料理を食べているのか。男達は、自身の母親の料理を貶していく。相当不味い料理を食しているのか、互いに置かれている立場を同情していく。そして母親が、ユアンのような料理の腕前を持って欲しいと願うが、それを期待する方が間違っている。何せ、差が大きい。
それなら今、美味しい料理を食べ満足する。
互いの考えが一致しているのか、ユアンの手料理をバクバクとがっついていた。流石、美味い料理。一瞬のうちに、胃袋に納まっていく。だが、それは男達だけではない。イリアを抜かした女達も、同じようにがっついていく。ユアンの料理の前では、礼儀や節度や品格はぶっ飛ぶ。
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