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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の14

「ラドック博士は、いいのですか」

「どういう意味かな」

「ジップロッグです」

「いいと思う」

「そうでしょうか」

「偶々、入れ物が無かったのかもしれない。それに、ジップロッグは密封性が高くていい物だ」

 ユアンの言葉は、他の人物より説得力が高い。確かに何処かへ持って行く場合は、密封性が高い方がいい。それを考えると、ジップロッグに入れて持って来たと馬鹿にすることはできない。

 クラスメイトは、イリアの顔とシフォンケーキを交互に視線を向ける。すると急に気まずい雰囲気になったのか、そそくさとその場から離れてしまう。そして、パーティー会場となっているリビングへと駆けて行ってしまう。一方取り残されたイリアは、ホッと胸を撫で下ろしていた。

「有難うございます」

「いや、構わない」

「本当に、危なかったです」

「そうだね。自分で作ったケーキではないから」

 それは、何気ない一言。

 その瞬間、イリアの心臓がドキっと高鳴る。

 気付かれた――

 見る見る内に、イリアの顔から血の気が引く。それを見たユアンは、苦笑と同時に肩を竦めた。

「やはり……」

「どうして、わかったのですか」

「会話の内容が、おかしかった。それは、以前の時から感じていたよ。それに、幼馴染は料理が上手い」

 ユアンの洞察力は、半端ではない。よって、そのように誤魔化した所でユアンに通じない。それを痛感したイリアは、本当のことを話していく。シフォンケーキを作ったのはソラで、入れ物がなかったのでジップロッグに入れた。そして、クラスメイトに内緒にしてほしいと頼む。

「今回だけだ」

「はい」

「しかし、ランフォード君の幼馴染は菓子作りが得意のようだね。このケーキは、実に美味い」

「一人暮らしが、長いそうですから。それに、菓子作りは趣味だと言っていました。他にも作れるようです。ですので、今回は特別に作ってもらいました。練習しても、失敗していまして……」

 それを聞いたユアンは、やはりソラをパーティーに連れてくるべきだったと思う。これほどのシフォンケーキを作ることができるのなら、普通の料理も美味しいに違いない。ユアンは不適な笑みを浮かべると、今度連れてきてほしいと頼む。そして、料理対決をしたいという。

「本気ですか?」

「本気だ」

「その時……」

「ランフォード君も一緒にどうだ」

 勿論、イリアが断るということはしない。ソラの料理の上手さは、イリアがよくわかっている。それにユアンの料理は、以前に食べたナポリタンが美味しかった。それを考えると、本気での料理対決は楽しめる。そして下手な料理店で金を出して食べるより、お得である。


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