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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の13

「……美味しいわ」

「そう?」

 イリアの言葉に、シフォンケーキに次々と手が伸ばされる。そして口に入った瞬間、全員が目を丸くした。

「美味い」

「う、嘘」

「信じられない」

 口々に発せられる言葉には、シフォンケーキを絶賛する内容が含まれている。その言葉の数々にイリアは、内心複雑な心境にあった。クラスメイトが絶賛するのなら、ユアンが食べても高い評価をしてくれる。しかし、これはイリアが作ったのではない。よって、罪悪感が心を覆う。

「イリアは、料理が上手かったのね」

「う、うん」

「そうよね。イリアは、研究の方に力を入れていると思ったのよ。だって、料理を作ったって聞かないもの」

「……有難う」

「それなら、私も練習をしておけばよかったわ」

 その言葉に続き、全員が一斉に笑い出す。勘違いして伝わっている、イリアの評価。それはソラが作ったシフォンケーキによって、いい方向へ向かっていく。よって、イリアの立場が上がった。

「何をしている」

「博士、このケーキ美味しいです」

「そうなのか?」

 キッチンに集まり、何かをしている者達。その怪しい集まりに姿を現したユアンは不可思議な表情を浮かべつつ、キッチンの奥へと向かう。そして、白い皿の上に乗っているシフォンケーキを見詰める。

「ああ、シフォンケーキか。ランフォード君が、作ったものだね。うん。見た目は、素晴らしい」

「わかるのですか?」

「以前に、約束した」

 一体、両者の関係は何か――

 ユアンの言葉に、女達は嫉妬していく。

 しかし彼女達の心情を理解していないイリアは、ユアンと楽しく喋っていく。そして、シフォンケーキを進めた。味は、クラスメイトのお墨付きがある。それにより、妙に積極的であった。ユアンはシフォンケーキの切れ端を手に取ると、口に運ぶ。そして、正直な感想を述べた。

 意見は、クラスメイトと同等。

 そう、美味いという回答だった。

 その瞬間、女達の顔が一気に歪む。まさに、示し合わせたかのように一秒の狂いも無く表情が変化した。それを真横で見ていた男達は、これまた示し合わせたかのように戦き女の恐ろしい一面を知る。

「いつ、練習したの」

「や、休みの日に」

「そうなの」

「インターネットで、検索したわ」

「それ、普通よ」

 明らかに、言動がおかしい。それに、声音の端々が微かに震えている。また、菓子作りを開始した、明確な理由が語られていない。今までの生活スタイルを考えれば、料理が好きというのは当て嵌まらない。だからといって、この日の為に練習したというのもおかしい。

 それに、シフォンケーキが入った入れ物はジップロッグ。通常パーティーに菓子を持って来る場合、箱に入れ綺麗に包装するもの。しかしイリアは、堂々とジップロッグに入れて来た。本当に、イリアが作ったのか。ジップロッグという入れ物から、疑惑が膨らんでいく。

 一流の菓子職人が経営している店でシフォンケーキを購入し、それをジップロッグに入れて持って来た。クラスメイトが出した結論はこのようなものだが、意外に本質は正しかった。しかし、どうしてジップロッグなのか――流石にその意味を出すのは、難しいものがある。


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あきゅろす。
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