第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の12
その言葉にクラスメイトは、イリアの家庭的な一面に驚く。周囲の見方は、典型的なお嬢様。
そのイリアが菓子を作り、持って来た。クラスメイトは互いの顔を見合うと、不味いケーキを持って来たのだと判断を下す。そう、今まで真面目に料理を作ったと聞いたことがないからだ。
料理経験が無い者の菓子――
本当に大丈夫か、心配になってしまう。
それにシフォンケーキで、食中毒というのは洒落にならない。よって、全員が身構えていた。
「どうしたの?」
「気にするな」
「そうそう、早く行く」
「そうよ。ラドック博士が、待っているわ」
「ほらほら、楽しいパーティーよ」
イリアに勘付かれてはいけないと、クラスメイトはイリアの背中を押す。そして、強制的にユアンの家へ連れて行く。突然の出来事に、イリアはそれぞれの人物の顔に視線を向けていくが、誰一人として言葉を発することはしなかった。ただ、半笑いをしつつ玄関へ向かう。
そして、満面の笑みのユアンに出迎えられる。
無論、皆の表情は一緒だった。
男は尊敬の眼差しを向け、女は憧れの対象として見る。
男女問わず惹き付ける魅力に、一瞬にして落ちてしまった。
「さあ、中へ――」
その言葉と共に、パーティー会場となっている部屋へと案内されていく。そして、賑やかで楽しいパーティーがはじまった。
「見た目はいいね」
「うん。見た目は……ね」
「そうだな」
「美味いのかな?」
イリアが持ってきたシフォンケーキが切り分けられている時、クラスメイトが一斉に口を開く。
確かに、イリアの腕前を考えていけばその反応は妥当。尚且つ、入れ物がジップロッグ。普通、このような場所へ持ってくる場合、箱に入れてくるのが常識――というより、当たり前。よって一般常識に乏しいイリアに、冷ややかな視線を悪いと思っていながら向けてしまう。
「だ、大丈夫……よ」
ソラに作ってもらった、シフォンケーキ。料理を趣味としている人物が作った菓子なので「不味い」と言われる心配はないと思ったが、味見の前にそのように言われると心配になってしまう。
それにより、徐々に思考が悪い方向へ流れていく。そしてイリアの心の中に、シフォンケーキが不味いのではないかと思いはじめてくる。その為、恐る恐る味見をすることにした。
「失敗?」
「それとも、成功?」
「どうなの?」
「感想感想」
言葉が、次々と投げ掛けられる。しかしイリアは、すぐに言葉を出すことができないでいた。
そう、予想以上に美味しかったのだ。一流の菓子職人が作ったのと間違えてしまうほどの味に、イリアは言葉を失っていた。ソラの腕前が、これほど高かったとは――幼馴染としての関係は長いが、はじめて知った真実でもあった。それにより、イリアの顔が明るく変化する。
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