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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の11

 胃が、焼けるように痛い。

 まるで、胃の中が硫酸で満たされている気分だった。

 ソラは懸命に、空気を求めるように喘ぐ。

 何故。

 どうして――

 身体を蝕んでいく症状に、毒付いてしまう。そして、寿命が削られていることに嘆いた。一体、何歳まで生きていけるのか。ソラは今まで、自分の寿命の計算をしたことはない。今まで、それは関係ないと思っていたからだ。だが今は、無性に残りの寿命が気になってしまう。

 刹那、身体は震えた。

 それに伴いソラは、ベッドからずり落ちた。

 そして、何度も堰を繰り返す。

 ピチャ。

 床の上に、複数の液体が落ちていく。それは、ソラが吐き出した鮮血。それも、何処かどす黒い。

(……あいつ等)

 無理矢理、喉に流し込まれた大量の薬。あれによって、胃を痛めてしまった。床に落ちている血が赤ではなく黒というのは、胃が異常を示している証拠。無意識にソラは吐き出した血に視線を落とすと、自身を苦しめていくどうしようもない症状に、大声を発していた。

 不幸と幸福。

 それらは、一定の割合で人間に分け与えられている。

 しかし、ソラは違う。

 不幸の割合の方が、多かった。

 薬の大量服用により、胃痛と同時に張りを感じる。よって、今は胃の中は空っぽ。いや、食事が喉を通らない。そしてシフォンケーキを作っている時も、膨満感に苛まれていた。それにより、食事の回数が減っていく。よって、確実に体重は落ちていた。そして現在の体重は、平均以下。

 この調子では、長期入院が余儀なくされてしまう。

 しかし、ソラはそれを拒む。

 入院は同時に、カイトスへ実験の材料として我が身を提供することになってしまうからだ。

 それは、何としてでも避けないといけない。しかし連続して襲ってくる胃痛に、ソラの額には大量の脂汗が滲み出ていた。その時、徐々に目の前が真っ暗になっていく。そしてそのまま、吐き出した血の上に倒れてしまう。身体が重く、動かない。まるで、石に等しかった。

 その後、意識は途切れてしまう。


◇◆◇◆◇◆


 ソラに代わりに作ってもらったシフォンケーキを持ち、イリアはユアンの自宅へ向かった。その途中、数人のクラスメイトと合流する。と同時に、一斉に言葉がイリアに投げ掛けられた。

 どうやって、約束を取り付けたのか。

 いつ仲良くなったのか。

 羨ましい。

 言葉の端々に見え隠れしているのは、イリアへの嫉妬心。しかし、表情は一定に保っている。どのような形であったとしても、憧れの人物が開くパーティーに参加することができる。不満を前面に出した表情を浮かべ参加したら、ユアンに失礼に当たる。そう判断を下したのか、皆破顔を見せていた。

「イリア、それは?」

「シフォンケーキ」

「作ったの!?」

「う、うん……」



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あきゅろす。
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