第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の10
その瞬間、台風が過ぎ去った。
一拍置いた後、ソラは長い溜息をつく。
そして、椅子を引いた。
(やれやれ)
今日は、やけに身体が疲れる。ソラは深々と椅子に腰掛けると、何度も溜息をついていった。
視界の中に、イリアが買い込んできた大量の材料が飛び込んできた。作った料理は、シフォンケーキのみ。それにより、大量という言葉が似合う量が残っていた。ソラは今までの仕事料ということで、これら全てを貰うことにした。ソラは、定期的に自炊を行っている。よって、有難かった。
しかし――
イリアは、シフォンケーキの中に何を入れようとしていたのか。買ってきた材料の種類に、理解に苦しむ。果物が入った缶詰。これは理解できる。一般的な菓子類は、果物を主体としている物が多い。そして、小麦粉に卵に砂糖。これらは、菓子作りの基礎となる部分に使用されるので必要だ。
だが――
野菜類は、何に使用するのか。確かに、世の中に野菜を使用したケーキという物は存在するが、ソラは野菜ケーキを作った経験を持っていない。それに、大根はケーキにミスマッチだ。
流石、料理経験が乏しいイリア。材料の選択時から、感性がぶっ飛んでいた。いや、壊れている。
しかし、普通「ケーキを作る」という時点で、選ばないといけない材料がわかるものだが、イリアは見事に期待を裏切った。いや、ある意味で天性の才能と表現できるだろう。だが、問題の方が大きい。
文明・文化が発達しているこの現代、自分で料理を作らなくとも生きていくことができる。
しかし、スーパーマーケットで数多くの食材が売られているというのは、やはり自分で料理を作って食べるという習慣が一番いいからだ。それにより、年々調理器具が発達している。
勿論、その中に「自動調理機」という便利な代物も含まれているが、売れている個数でいえば一般の調理器具。無論、便利で高性能の機械が登場すると、ソラもインターネットで購入している。
やはり、どれだけ生活面が豊かになっても「食」という根本的な部分は、変わらないという証明でもあった。現に美味しい物を食べて、怒る人間はいない。それだけ、重要なのだ。
(本当に――)
ソラは袋から顔を覗かせている大根を叩くと、椅子から腰を上げた。その瞬間、眩暈を覚えた。
一瞬、身体が浮き上がる。
そして、膝から崩れた。
「くそ」
思わず、毒付いてしまう。
それと同時に、検査の時の副作用と思う。
床に両手を付くと、肩で息をしていく。
そして、激しい動悸が続く。
苦しい――
それが、全身を支配した。
それは、大量の薬を服用した時に表れる症状に似ていた。いつもと同じであったら、横になれば気分が良くなっていく。その為、ソラは寝室へ向かうとベッドの上に倒れ込むように横になった。視界が、グルグルと回転している。それに伴い、何とも表現し難い感覚が身体を駆け巡る。
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