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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の9

「美味しそう」

「これでいいか?」

「うん。有難う」

「包装等は、自分で」

「包装?」

「イ、イリア……」

「どうしたの?」

「誰かのもとへ持っていく場合、包装は不可欠だよ」

「あっ! そ、そうよね」

 きょとんとした表情を浮かべていたイリアに、ソラは冷ややかな視線と言葉を返した。彼にしていれば、きちんと包装用の箱を用意していると思っていた。しかしイリアはシフォンケーキの材料だけ購入し、肝心な部分を完全に忘れていた。それにソラは、包装は苦手だったりする。

「仕方ない。探そう」

「う、うん」

「多分、適当な物があると思う。と言っても、箱はないから……どれがいいかな? 密封できる方がいいだろう」

「できれば……」

「うーん、これじゃあ駄目か」

 物事の計画性の悪さに、ソラは何も言えなかった。確かに、研究面では素晴らしいと思う。

 しかし、重要な部分はからっきし。それはイリアの今までの生活スタイルを考えれば仕方がないことだが、内心ではもう少しシッカリして欲しいと願ってしまう。ソラは溜息と同時に頭をガシガシと掻くと棚を開き、シフォンケーキを入れるに相応しい物を探していく。

「これでいいか?」

「それって――」

「他はない」

 ソラが取り出したのは、半透明のジップロッグ。勿論、シフォンケーキを入れて持っていくには相応しい入れ物ではないが、これ以上の物はない。それにそれ以外の入れ物は、シフォンケーキの方が大きくて入れることができなかった。その為、ジップロッグが選ばれた。

 イリアはそれを受け取ると、シフォンケーキをジップロッグの中に詰め込む。勿論、シフォンケーキは柔らかいスポンジが特徴のケーキ。しかし入れ方が悪かったのか、スポンジの三分の一が潰れてしまう。決して、手荒に扱ったのではない。ただ、入れ方が悪かった。

「潰れても、大丈夫?」

「味は、問題はないよ」

「良かった」

「貸して。オレが入れるよ」

 見兼ねたソラがイリアからジップロッグを受け取ると、丁寧に入れていく。流石というべきか、綺麗にジップロッグの中にシフォンケーキが納まった。そして封を閉じ、イリアに手渡す。

「有難う」

「上手くいくといいね」

「う、うん」

「どうした?」

「……何でもないわ」

 イリアはそれ以上、言葉を続けようとはしなかった。ソラは、相手の気持ち――特に、異性の感情を読み取るのが下手だった。それによりイリアは深々と頭を垂れると、一言「有難う」と、言う。

「いいよ。それに、早く行かないと」

「……うん」

 ソラの言葉にイリアは、シフォンケーキをカバンの中に詰め込むと再度御礼の言葉を言い、玄関へと走って行った。一方ソラは、後姿を見送るだけで動こうとはしない。そう、完全に疲れてしまった。

 遠くで、扉が閉まる音が響く。


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あきゅろす。
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