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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の8

「えっ!?」

 ソラの指摘に、イリアは慌ててシフォンケーキを見詰める。すると指摘の通り、真っ黒に焦げていた。一体、何が悪かったのか。材料の分量は、合っている。それに、工程も間違っていない。それにオーブンの温度を調節したのは、イリアではなくソラ。焦げる理由が、見当たらない。

「……ソラ」

「イリアは、悪くないよ」

「う、うん」

「多分、調子が悪かったんだ」

 そのように言っても、何が調子が悪いのかソラ自身わかっていない。しかし今は、イリアを慰めるのが先決。今回の失敗で、菓子作りが嫌いになっては困るからだ。その為、ソラは必死だった。

 ソラの懸命な説得により、イリアは落ち着いていく。それに、最初から成功するというのは難しい。何せ、シフォンケーキの難易度は高い。それを無謀にも挑もうとしていたのだから、その点は絶賛に値する。ソラは包丁を取り出すと、失敗したシフォンケーキを切った。

 すると、中は綺麗に焼けていることに気付く。どうやら、表面だけが真っ黒くなってしまったようだ。

「うん。美味いよ」

「本当?」

「結構、上出来」

 焦げていない箇所を摘まむと、それを口に運ぶ。そしてソラは、正直な感想を述べていった。言葉の通り、はじめて作ったにしては上出来。なんだかんだと理由をつけて今まで料理を敬遠してきたイリアであったが、意外に料理の才能を持っていることがこれで判明した。

 努力を続けていけば、美味しい菓子を作れるようになっていく。無論、それまでにはかなりの時間を有する。だがイリアに教えることに面白さを見出したソラは、二回目のシフォンケーキ作りを提案する。今度はもっと、ビシバシと鍛えていくつもりだった。しかし、イリアの顔色が優れない。

「大丈夫……かしら」

「心配?」

「……うん」

「今度は、もっと丁寧に教える」

「そ、それなら……」

 時間の経過と共に、顔色がどんどん悪くなっていく。その瞬間、トラウマになると判断したソラは、ひとつの提案をする。それは、自分が作った物を持っていけばいいというものだった。

「いいの?」

「特別」

「バレないかしら」

「その時はその時」

「……有難う」

 そう小声で呟くイリアの表情は、何処か嬉しそうだった。その笑顔にソラも微笑を浮かべると、使用していたボール等を綺麗に洗っていく。そして分量を正確に測っていくと、料理を開始した。勿論、イリアも手伝う。その後暫くの間、二人は菓子作りに没頭していった。




 オーブンの中から取り出された、シフォンケーキ。焦げ目がついていない白いスポンジは、見た目はプロが作ったケーキに等しい。そして、微かに漂う甘い香りが食欲をそそる。綺麗に作られたシフォンケーキに、イリアは嬉しそうにはしゃぐ。まさに、一流の品であった。


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