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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の2

 無論、それが生易しい検査の訳がない。能力者(ラタトクス)の中で最強と謳われる力を持つ人物を目の前に、彼等の目の色が変化するのは一瞬の出来事。それにより、悪夢の再来を体験してしまう。

 身体と精神に、予想以上の傷を残した。そして外見上見える範囲でそのことを判断できるのは、足首に巻いている包帯。それは傷跡というわけではなく、一種の捻挫だ。その為、歩行が辛い。それを見たイリアの表情が、徐々に悪くなっていく。そして一言、謝ってきた。

「……御免なさい」

「いや、いいよ」

 捻挫の影響で、一箇所に立ち続けているのは不可能に近い。痛み止めを用いて痛みを散らし作業を行うという手も無いわけでもないが、自宅にいる時にそれを用いることはしない。何より回数を増やして使用していると、癖になってしまう。そして身体に耐性が生まれ効き目が弱くなってしまうと、今後の生活に関わってくる。よって、使用は避けたかった。

 イリアに、現在の状況を説明した所で理解してはくれない。いや、理解してはいけない生活だ。何より薬漬けの毎日のソラと、生活スタイルが違う。逆に「理解している」と言ったら、嘘になってしまう。それに知ったら知ったで、どのような反応を示すのか手に取るようにわかる。

「座っていていいか」

「辛いのなら」

「すまない」

「ソラが、謝ることじゃないわ」

「いや、悪いよ」

 ソラは一言、そう発した。そして項垂れると、イリアに気付かれないように短く息を吐いた。別に、億劫というわけではない。現に足の調子が良かったら、イリアに進んで作り方を教えていた。しかし不自由な足は、精神的な落ち込みを誘発する。よって、ソラは気力が湧かない。

「仕方ない」

「ソラ?」

「君の頼みだ」

 しかし、それ以上の言葉は続けられなかった。一方イリアは、久し振りに「君」と呼ばれ、動揺してしまう。普段、互いに名前で呼び合っている。だが今回は、微妙に何かが違った。無論、それは漂う雰囲気。それはソラとイリアが互いにどのような感情を抱いているのか、証明していた。

「……ソラ」

「何?」

「本当に、いいの?」

「何を今更――」

 イリアは、ソラに菓子を教えて欲しいと頼みに来た。それを今更、いいか悪いか訊ねる問題ではない。それに彼自身、内心「イリアの為に――」という感情が、心の中に存在していた。しかし、普段通りに装う。そして「用事」という言葉を残し、イリアの前から立ち去る。

「ソラ?」

「だから、用事」

「平気?」

「心配しなくていいよ」

 何度も必死に訴えてくるイリアに、ソラは苦笑を浮かべつつそのように言う。しかし、イリアの心配は続く。その為、オロオロと周囲に視線を走らせていた。だが後に続けないので、ソラが奥の部屋から戻ってくるのを静かに待つ。その間も、大丈夫かと心配し続けた。


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あきゅろす。
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