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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の23

「彼に、料理を作っているのか」

「いえ、それは……」

「時々、作ってあげるといい。優しい女性であったとしたら、それくらいしないといけない」

 ユアンからの指摘に、イリアはゆっくりと頷く。しかしソラの腕前を考えると、なかなかできない。逆に、料理を作ってほしいと思ってしまう。腕前が高い相手を満足させる料理は、どのようなものか。下手な料理を作った所で、批判と中傷は免れない。それが、怖かった。

 しかし物事は、挫折と苦労の連続。ソラも最初から、料理が上手いわけではない。ネット上に公開されているレシピを参考に、独自のアレンジを加えていった。勿論それ以前に、料理の基礎を真剣に学んでいった。それが実を結び、今の料理の腕前となっている。要は、努力だ。

 無論イリアも努力していけば、腕前は上がっていく。そして一時期「頑張らないと」という想いで、料理を学ぼうとしていた。しかし懸命に努力したところで、なかなか上手くならない。カイトスとしての勉学は、必死に行っていた。だが、それ以外はからっきしである。

「私が料理を作ったら、食べて頂けますか?」

「菓子を作って、持ってくると約束したが……」

「そ、そうでした」

「その時に、食べさせてもらう」

 話術に関していまいちのイリアは、長く会話を続けていると襤褸(ぼろ)を出してしまう。お菓子を作って持ってくると約束したというのに、食べて頂けるかどうか訊ねる。その矛盾点にユアンは、首を傾げてしまう。一方イリアは、自分が言っていることに恥ずかしさを覚えたのか赤面していた。

「それでは……美味しく……」

「僕も、美味しい料理を用意しないと」

「ラドック博士なら、大丈夫です」

「それは、有難う」

 ほのぼのとしたやり取りが、続いていった。ユアンは微笑を浮かべながら言葉を返していき、イリアは自身が置かれている状況に更に赤面していく。そして夕方近くまで、二人は楽しい会話を続けていた。


◇◆◇◆◇◆


「今日は、有難うございます」

「本当で、此処でいいのか?」

「はい。自宅の前ですと、親が煩いですので」

「親とは、そういうものだ」

 年頃の女の子を持つ親は、娘の身体問題を過度に心配する。特に男女関係には敏感で、ユアンに送ってもらった光景を見たら、何と言うか。ソラも、何だかんだで気にしている。それを思い出したイリアは、クスっと笑ってしまう。そして、心配性だと愚痴を言っていった。

「そう言ってはいけない」

「そうでしょうか」

 必要以上に縛り付けてくる、イリアの両親。時として鬱陶しいと感じてしまうが、親という生き物はそれが当たり前。そしてユアンは、諭すように親心の何たるかを教えていった。イリアも親になったら、理解できるという。だが、今のイリアには難しい言葉に等しい。


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あきゅろす。
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