第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の15
だが、ユアンは平然を装う。これくらいで、感情を露にすることはしない。それに、このような性格の持ち主は研究所の中に存在する。そのような人物を毎日のように見ていれば、可愛いものだ。その為、イリアに気付かれないように目的としている話に誘導していく。
「で、どうすればいい?」
「旅行を――」
「それは、無理だ」
「ですね」
「それなら、パーティーはどうかな」
「パーティー?」
その提案に、イリアは首を傾げてしまう。パーティーといっても、大小様々な内容がある。ユアンは、一体どのようなパーティーを考えているのか。反射的にイリアは聞き返すと、信じられない内容が語られた。それは、ユアンの自宅でパーティーを開くというものだった。
「いいのですか?」
「僕は、構わない」
「皆が、喜びます」
「それは、嬉しいね」
まさか、ユアンとパーティーができるとは思いもしなかった。それも、自宅で。イリアの顔は一瞬の内に明るくなり、瞳が輝く。それを見たユアンは満足そうに微笑むと、今度はイリアにとって衝撃的な内容を発する。それは、先程の約束「クッキーを食べたい」というものだった。
「パーティーで出そう」
「そ、それは……」
「何か、困ることでも」
「い、いえ」
「それなら、出しても構わないだろう」
「……はい」
素直に「無理」だということを言えたら、どんなに楽だろうか。しかしユアンにいい面を見てもらいたいという部分が強いので、言うことができない。それにイリアは、どうも押しに弱い。それは、アカデミーでのやり取りで証明されている。そう、例の二人の件である。
こうなってしまうと、後に引くことができなくなってしまう。そうなると、やはりソラに作り方を聞くのが一番。彼は、料理を得意としている。間違いなく、美味しいクッキーの作り方を知っているに違いない。それに女の子として、お菓子のひとつくらいは作れる方がいい。
勿論、相手は苦笑いをするだろう。しかし今のところ、頼める相手はソラしかいなかった。
それに、母親は――
正直、あまり頼みたくなかった。
ソラの腕前は高い。だが、ひとつ問題が生じる。それは、料理が上手すぎるということだった。
素人に近いイリアの腕前。相手はプロクラスの腕前なので、果たして付いていくことができるか。しかし、何事も挑戦しないとはじまらない。そう決意したイリアは、ソラに頼むことにする。
真剣な表情で考え事をしているイリアに、ユアンは言葉を続けてくる。それはパーティー以上に驚き、尚且つ喜ばしい内容であった。それは、ユアンが料理を作ってくれるということだ。
「作れるのですか?」
「手の込んだ物は無理だ」
「でも、作れるのは……」
「ランフォード君は、作れないのかな?」
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