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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の14

 ユアンが持つ情報網は、並を凌駕する。一体、どのような繋がりがあるのかと疑問を持ってしまうほど広い。それを使えば、ファンクラブが存在しているくらい、簡単に判明する。

 しかし、そのことを訊ねない。それに、聞くこともしない。ただ微笑みを浮かべ、存在していることに驚く。ユアンは物事に敏感であるが、それを表情と態度に示すことは少ない。

 常に、冷静に――

 それが、ユアンという人物の対面方法だった。

「そう言えば、場所を決めていなかった。コーヒーを飲みクッキーを食べながら、決めていこう」

「あっ! 忘れていました」

「……こら」

「す、すみません」

 年齢を考えると、物忘れが激しいのはおかしい。それなら、俗に言う天然か。しかし天然でも、いいものと悪いものがある。今回の場合は、後者。大事な約束事は、忘れてはいけない。特に、社会人の間で「天然」という言葉は通じない。物事は、いいか悪いか。その二つだからだ。

 相手がユアンであったから、イリアは助かった。彼は厳しい一面を持っているが、公私混同する性格ではない。その為、イリアが天然の性格を表面に出そうが、問題定義として追求することはしなかった。それが別人であったとしたら、今イリアは危ない位置に立っていたに違いない。

「ランフォード君らしい」

「そうでしょうか」

「ああ、そうだね」

 何を思って「らしい」と、言ったのか。だが、ユアンは明確な回答を述べることはしなかった。

 それはユアンの個人的な心象で、他の者達が同じ心象を持っているとは限らない。その為、それ以上口を開くことはなかった。ただ、無言のままで隣の部屋へ向かうと、ソファーに腰を下ろす。そして、コーヒーを口に含んだ。一方イリアは立ち尽くし、動こうとしない。

「どうした?」

「い、いえ……」

「座らないのか?」

「す、座ります」

「それなら、どうぞ」

 イリアはクッキーとコーヒーが入ったマグカップを手に、ソファーに腰掛ける。そしてそのふたつをテーブルの上に置くと、ユアンの顔を見るのが恥ずかしいのか黙り込んでしまう。今まで、意識はしていなかった。しかし今の「らしい」発言で、過度に意識してしまう。

 一体、ユアンは何を――

 だが、真意を問い質すことはできない。

 それにより、嫌われてしまう。

 その考えが強かった為に、妙に萎縮してしまう。

「緊張している?」

「……はい」

「先程は、元気だったよね」

「は、はい」

「だから、女は――」

 イリアの耳に届かないように、ユアンは囁く。それは彼の本音で、イリアを含めて多くの女性に対しての印象であった。気分がコロコロと変わり、いまいち把握し辛い。そして、それを隠そうとする。別にユアンは、隠してほしいと思ってはいない。寧ろ、大っぴらに外に出してほしいと考えていた。時と場合という言葉も存在するが、プライベートは別問題。


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あきゅろす。
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