第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の12
「菓子作りが上手い人物が作った物だから、美味いのは当たり前だ。所で、ランフォード君はどうなのかな?」
「お菓子作りですか?」
「そうだ」
「一応……作れます」
そのように言うが、イリアは料理関係は苦手だった。幼馴染のソラの方が腕前が高く、簡単な料理も場合よっては最低の料理に仕上がってしまう。特に、玉子焼きは最悪。焦がし、黒い煙を部屋に充満させてしまった過去を持っていた。その為、クッキー作りは夢のまた夢。
しかし、ユアンにそのことを知られたくない。以前「料理が上手い女性が、好みのタイプ」と言っていたことを思い出したイリアは、自身が料理下手ということを必死に隠していく。
その時、イリアに対して衝撃的な内容が突き付けられた。それは「イリアの手作りクッキーを食べてみたい」と、ユアンが言ってきたのだ。勿論、簡単に了承できる内容ではない。動揺し焦るイリアに、ユアンは止めともいえる笑顔を向ける。それにより、イリアは落ちた。
「どうかな?」
「こ、今度……」
「そう、楽しみにしている」
「が、頑張ります」
とんでもない約束をしてしまったと後悔してしまうが、ユアンに対しての好感度を上げるチャンスだと前向きに考えていく。何より、ユアンの笑顔は無敵で最強である。これを間近で見てしまうと「嫌だ」と、断ることが絶対にできなかった。寧ろ逆に、簡単に了承してしまう。
「湧いている」
「えっ! ああ!」
「気を付ける」
「は、はい」
噴き出している湯気に直接触れてしまったのか、イリアは慌てて手を引っ込める。そして痛む手に視線を落とすと、赤く染まっていた。しかし、火傷はしていない。そのことに胸を撫で下ろすと、お湯が入ったポットを手に取る。そして、オズオズとコーヒーを淹れていった。
「量は、少なくていい」
「はい」
「それと、落ち着くように」
「は、はい……きゃあ!」
「……ランフォード君」
ユアンに見詰められているという緊張から、イリアはインスタントコーヒーを入れ物ごと床に落としてしまう。散乱した、こげ茶色の黒い塊。イリアはしゃがみ込むと、両手でそれを一箇所に集めていく。見兼ねたユアンは隣の部屋に戻ると、小型の掃除機を持って来た。
「これを使うといい」
「すみません」
「一体、どうしたのかな」
「いえ、考え事を――」
「それはいけない。何か、悪いことでもあったのかな。僕でいいのなら、いつでも相談に乗る」
「いえ、大丈夫です」
流石に、クッキーのことを気にしているとは、相談することはできない。それにより、料理が苦手というのがわかってしまう。イリアはそのことを隠すように誤魔化していくと、掃除機を受け取る。そして電源スイッチを押すと、インスタントコーヒーを丁寧に吸い込んでいく。
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