第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の11
「持って来れば、いいのですね」
「そう、頼む」
「場所は、何処ですか?」
「キッチンに、リボンが巻かれた箱が置いてある。その中に、入っているから持ってきてほしい。すぐに、わかる」
「はい。わかりました」
ユアンからの言葉を受け取ると、意気揚々とキッチンへ向かう。そしてマグカップを流しに置くと、目的の箱を探す。それは、簡単に発見できた。ユアンが言っていた通りに、目に付く場所に置かれていたのだ。イリアは箱を手に取ると、徐にリボンを解いていく。そして、中身を見た。
(美味しそう)
箱を開けた瞬間、綺麗に模られたクッキーが入っていた。丸に四角に星型、それに三角の型。これを作った人物は相当マメな人物なのだろう、丁寧に作ったことが一目で判明できた。そして何を思ったのか、イリアはクッキーを摘み食いしてしまう。それも、複数を――
「ランフォード君」
「えっ! は、はい」
「何か、あったのか?」
「い、いえ……」
イリアは慌ててクッキーが入った箱を後ろに隠すと、愛想笑いを浮かべた。その不可解な態度にユアンは首を傾げると、別の物を取りに来たことを告げる。摘み食いに、気付かれていない。そのことにホッと胸を撫で下ろすイリアであったが、二人の間におかしな緊張感が走る。
「インスタントのコーヒーは、それになる。そして、ポットはそれを使うといい。で、やり方は……」
「それは、わかります」
「そうか。後は、頼む」
「はい」
「で、隠している物を貰っていく」
「気付いて……」
「それを言ってほしいかな」
「い、いえ」
ユアンの言葉に、イリアはピクっと身体を震わす。やはり、気付かれていた。流石ユアンというべきか、実に侮れない。イリアは身を縮めると、クッキーが入った箱を手渡す。そして、恐ず恐ずとコーヒーを淹れる準備をはじめた。しかしイリアの不幸は、これで終わったわけではない。
ユアンは箱を開くと、中身の個数を数えていく。無論、摘み食いをしているので個数は足りない。それに気付いたユアンは、目の前でコーヒーを淹れている準備をしているイリアに、厳しい視線を向けた。しかし、言葉を投げ掛けることはしない。それどころか、精神的ショックを与えていく。
それは、溜息をついたのだ。無論、これは態とやっている。だが、イリアは気付いていない。その為、イリアの顔色は徐々に悪くなっていく。そして「しまった」と、思いはじめた。
「ご、御免なさい」
「何が?」
「その……クッキーを……」
「……そうだね」
とうとう、イリアは素直に白状した。無論、白状は早ければ早い方がいい。しかしイリアの場合、言うことが大前提。何故なら、ユアンが問い質さなければ永遠に隠していたからだ。
憧れの人物に、自身の嫌な一面を見せたくはない。というのが主な理由だと考えられるが、ユアンはそのような人物を嫌っている。表面上を取り繕った所で、本質は外に出てしまうもの。その時の印象が悪い場合、信頼を無くしてしまう。そう、人間関係は信頼で成り立っている。
「美味かった?」
「お、美味しかったです」
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