第二章 揺らぐ心、不確かな絆 其の7 そして、就職も大きく関係していた。何より憧れのユアンが勤めている研究所で働くというのは、ユアンに見られる確率が高まるということ。その為、イリアは徐々に女性らしい生き方をしていく。それと同時に、恋愛感情が高まっていった。いつか――その思いは、今も続く。 「おかしいですか?」 「いや、特には」 「頑張りました」 「化粧は、頑張るものなのかな」 「ネットで調べますと、二時間化粧に時間を掛けるという人物もいるらしいです。流石に、私は……」 それを聞いたユアンは、唖然となってしまう。化粧に、二時間――彼にしてみれば、馬鹿馬鹿しいことだった。出発の時刻が朝の七時と予定していた場合、起床は五時という所か。いや、化粧で全てが終了するわけではなく、着替え身嗜みを整えそして朝食を取らないといけない。 これは、一種の執念。言い方を悪くすれば、精神面の病気。異性の心情を、やはり理解し難い。ユアンは苦笑いを浮かべると、研究所で働いている女性のカイトスのことを思い出していく。 そして、溜息をついた。 「ラドック博士?」 「気にしなくていい」 「で、ですが……」 「それより、もう少しで到着する」 「あの……其処は?」 「まだ、内緒だ」 なかなか目的地について話してくれないユアンに、イリアは頬を膨らませてしまう。デートをしているということで、完全に恋人気分。当初は、ユアンに本音を悟られてはいけないと頑張っていたが、それが長く続くことはない。それにより、このように襤褸(ボロ)が出てしまう。 「怒らないでほしい」 「怒っては……いません」 「それなら、辛抱だ」 「は、はい」 此処で、無理に聞き出してもいい。しかし、ユアンに怒っていることを窘められてしまった。その為、これ以上の我儘を言ってはいけない。ユアンが気分を害してしまったらこの先、気まずい雰囲気になってしまう。何より、デートは楽しまないといけない。それが、イリアの理想だった。 その後、イリアとユアンの間に長い沈黙が走る。ユアンは、イリアが話し掛けてきたのなら喋っていた。しかし一方のイリアは今以上の それにより、車内は静寂が包まれた。 そして、目的地へ到着する。 ◇◆◇◆◇◆ 目的の場所――それは、二階建てのこじんまりとした家の前であった。建築年数は、集十年という所か。壁が、少々汚れている。それに、蔦が絡まっている部分が目に止まった。それにこの一体は、海辺の街と表現するべきか。下車したと同時に、潮の香りが鼻腔を擽る。 この一帯はイリアが暮らしている住宅街とは、明らかに雰囲気が異なっている。どちらかといえば、文明発達が遅れている地方の街並みに似ていた。しかし、イリアは正確な情報を持っていない。テレビや雑誌・インターネットで見た光景をそのまま当て嵌め、意見を言う。 それにより、時として的外れの意見を述べてしまう。それは、仕方が無い。高い文明と科学力を持っている場所に、暮らしているのだから。その為イリアの正直な意見に、ユアンは苦笑してしまう。 [*前へ][次へ#] [戻る] |