第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の17
今、タツキができること。それは、二人の調理姿を静かに見守るしかできない。無言のままソファーに腰掛け、時間を潰していく。しかし無言を貫くのは、思った以上に辛い。何より、タツキは無類のお喋り。一方ソラとクリスは、長時間無言を突き通しても平気であった。
しかしタツキは、十分も持たない。その為、二人に話し掛けていた。しかし、相手からの返答はない。調理に集中しているのか、タツキの声は耳に入っていなかった。それどころか、二人の会話は弾んでいた。料理が作れる同士、話のネタは尽きない。そして、互いの技を盗む。
「ねえ、聞いている」
「何?」
「お前は、静かに座っていろ」
「だって、暇なのよ」
「料理は、作れないだろ」
その一言は、タツキの身体に突き刺さっていく。作れない者がどのように足掻いたところで、作ることはできない。新鮮な食材は無駄になってしまい、後片付けが面倒になってしまう。この場合、手助けはいらない。それどころか、静かに待っていてくれた方が有難い。
「そ、そうだけど……」
「タツキは、これを食べていてほしいな」
「あら、美味しそう」
ソラが差し出したのは、先程約束をした「オムレツ」であった。それを受け取ったタツキは、構ってくれないことに不機嫌な表情を浮かべていたが、オムレツは食べることにした。無論、その間は静かだ。と言うより、美味しくて食べるのに夢中という感じでもあった。
「どんどん、料理を作りましょう。どうやら、何かを食べていると静かにしているようですから」
「そうかもしれないな」
「次は、何を作りますか?」
「やはり、肉料理だ」
「ああ、そうでした」
「俺は、肉を焼く」
「でしたら、ソースを作ります」
二人は互いの役割を決めると、それぞれの分担に別れていく。肉を焼くといったクリスは、丁寧に脂身を処理していく。中には「脂身が美味い」という人物もいたりするが、クリスを含めソラも脂身は嫌い。タツキの好みは不明であったが、脂身の処理は勝手に行われていく。
タツキの位置では、脂身の処理は死角になってしまう。これにより、何をしているのかわからない。何より脂身の大量摂取は、健康に悪い。それ以前に、タツキの生活は不摂生すぎた。このままでは、早死にの対象者になってしまう。それにタツキは、ソラの恩人。早い葬式は、迷惑だ。
無論、クリスも同意見。元同僚の葬式は、悲しい。しかしその前に、タツキの葬式では……涙が流れるか、わからない。何せ、毒吐き関係。葬式の時も、毒を吐いてしまうだろう。
その時、ソラとクリスが同時に溜息をついた。
それも、数秒の狂いも無く。
「どうしました?」
「ソラは、どうした?」
「タツキのことです」
「俺も、タツキのことを考えていた」
「それ、本当!」
オムレツを食べているので、静かにしていると思っていたタツキであったが、どうやら聞き耳を立てていたらしい。それに、オムレツは食べ終わっている。大食漢と同時に、早食い。やはり、健康に悪い。
「お前の悪口だ」
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