第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の14
その言葉を発したことに恥ずかしくなったのか、再び赤面してしまう。二十歳に近い男とは思えない初な姿に、クリスは爆笑した。実のところ、ソラは恋愛が苦手。経験もないに等しい。
無論、クリスはそのことを知っていた。だが、このようにからかって遊ぶ。傍から見れば「虐め」に等しい行為と、勘違いされるだろう。しかしクリスは、冗談で本気で行ってはいない。
ソラは、そのことを知っていた。物事には、踏み込んでいい場所と悪い場所が存在するという。よって何も知らない者は、気安く接してはいけない。そう、ラタトクスを深く知る者以外。
「水着の美女は、いいものだぞ!」
「オレは、違いますよ」
「いや、それはわからない。個人の好みなんて、途中で変わるものだ。だから、ソラだって……」
「なら、タツキは?」
「そ、それは……」
その名前が出た瞬間、クリスの全身は硬直してしまう。タツキの水着姿――それを考えた瞬間、顔面の血の気が引いてしまった。同じ異性だというのに、タツキは別人と思ってしまう。どうやら想像してしまった結果、気分が悪くなってしまった。その為、しゃがみ込んでしまう。
過度の想像は、身を滅ぼす。思考停止寸前のクリスは、呻くしかできない。タツキの体型は、悪くはない。しかし、相手がタツキというところに問題点があった。水着姿と同時に、あの性格を思い出す。
水着の美女は、優しい人物。クリスは、固定概念を有していた。それにより、タツキは範囲外だ。
「……気分が」
「過去に、何かありましたか」
「聞くか?」
「い、いや……ちょっと」
「それが、賢明だよ」
本能的に「聞いてはいけない」と、ソラは判断した。しかし、知りたいという気持ちは存在した。一体、二人の過去に何があったのか。それは、一種の禁断の箱。だが、開ける勇気はない。
「……嫌なことを思い出した」
「そ、そんなに凄いことが」
「聞くか?」
「ですから、いいです」
「……残念」
言葉で「聞くな」という意思を示していたが、内心は話したい気持ちでいっぱいであった。その証拠にソラが断った瞬間、悔しそうな表情を見せていた。同じ記憶を有する者――それが欲しいらしい。
「で、乗っていくか」
「いえ、バイクがありますので」
「……面白くない」
「聞こえています」
「はははは、何のことかな」
「話したいのでしたら、構いません」
業を煮やしたソラは、言葉を投げ付けた。刹那、クリスの瞳が怪しく光る。そして次の瞬間、浪々と語りだした。当初の語りは、問題ない。しかし中盤に差し掛かると、ソラは無表情になってしまう。
そして、聞き返した。
タツキが、何を行ったのか――
それは、幻聴ではない。そのことが判明した瞬間、ソラは後悔してしまう。クリスに乗せられ、聞いてしまった真実。その衝撃は、全身をナイフで抉られたに等しい。ソラは吐血寸前に陥り、胸元を押さえてしまう。それはいつもの発作とは異なり、精神的な苦痛は激しい。
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