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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の13

 しかし、それが悪いわけではない。

 時として、その中に邪念が混じる。

 それが、この世界の現状。

 まさに、盲目的な思考であった。

 だが、全てが悪いわけではない。このように、普通に付き合ってくれる人物がいるのだから。それは、とても有難い。多方面から、物事を見ることができる。本当に頭がいいというのは、このような人物を示す。知識だけであったら、勉学でどうこうできる。しかし、他は――

 その者が歩んできた人生と、物事を見る力。正直、カディオは頭が良いとはいえない。だが、相手の感情を読み取るのは上手かった。だからこそ、ソラの苦しみを知ることができる。

 ラタトクスと付き合っていけるのは、このような人物だろう。よってソラは、気さくに接する人物を大切にした。そして、軽い口調で言葉を返す。互いの間に、余所余所しさは不要だ。

「本当に、ありがたいです」

「でも、のどかな場所もいい」

「観光地ですか?」

「まあ、そのようなものだ」

「行きたいですね」

「行くか?」

 何気ない言葉の返しであったが、クリスはそれに食い付く。予想外の反応にソラは目を丸くすると、本気で行くのかどうか訊ねた。するとクリスは、持っていた紙袋をソラに手渡すと、身振り手振りで説明をはじめた。どうやら旅行に行きたいということは、間違いない。

「青い海に白い雲。それに、水着の美女」

「はい?」

「ソラも大人なのだから、水着の女性に――」

「場所を考えてください」

 顔を赤らめながら、小声で呟く。そのことに初々しさを感じ取ったクリスであったが、周囲から痛い視線を感じ取る。どうやら「水着の美女」という単語に反応を示したのだろう、口々に噂話をしていた。その声が更に羞恥を招いたのだろう、ソラは耳まで赤く染めていた。

 クリス曰く「水着の美女は、男の願望」らしい。しかしソラはクリスと同じ性格を有しておらず、ますます困ってしまう。それ以前に、このようなことに免疫がない。目の前に水着の女性が現れたら、逃げてしまう。ソラは、初恋をしたことがない。よって、恋愛面は初だ。

 これも、日頃の生活スタイルが関係していた。クリスは仕事に関しては真面目にこなしていくが、プライベートに関してはこのようなもの。リゾート地に行けば、ナンパは絶対だ。

 それにより、口調は軽い。真面目と不真面目を上手く使い分けていると思われるが、いかんせんソラには理解できない。その為クリスの背中を押すと、そのまま駐車場まで連れて行った。

「別に、構わないじゃないか」

「オレは、困ります」

 それは必死の訴えであったが、聞き入れてくれることはない。するとクリスは後部座席に荷物を置くと、何を思ったのかソラの首に腕を回す。そして、人差し指で頬を突付きはじめた。

「今年で、いくつだっけ?」

「二十歳になりますが」

「なら、異性に興味を持て」

「何故、命令形なのですか」

「いいじゃないか」

「カディオと、同じことを……それに、水着の女性など――」


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