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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の12

 その言葉が示しているのは、タツキしかいない。彼女の場合は、周囲がシッカリしているからいいのだろう。ソラやタツキがいなければ、生活面は褒められたものではない。きっと、堕落していた。そのように考えれば、タツキは幸せ者なのだろう。恵まれている部分が多い。

「それは、タツキだな」

「勿論です」

「では、そのタツキを待たせてはいけない。支払いをしてくるから、少し待っていてくれないか」

「出入り口で、待っています」

 ソラからの言葉を受け取ると、クリスは支払いを行う為にレジへ向かった。その後ろ姿は、まさしく主夫に等しい。将来、良い夫になるに違いない。クリスは、その資質を秘めていた。クリスと結婚した相手は、理想の結婚生活を送ることができるだろう。彼は、優しい人物だ。

 このような人物だからこそ、相手は性格を優先しないといけない。やはりクリス同様に、素晴らしい相手がいい。我儘な性格の持ち主であったら、クリスが可哀想だ。しかし、それは難しい。それなら、研究所に勤めている女性――だが、ソラは複雑な心境を持っていた。

 例の場所で働いている人物の全てが、クリスと同じ考えの持ち主ではない。どちらかといえば、世論に比例していた。

 そのような相手と結ばれたら、苦労をしてしまう。ソラは、二人の幸せを願っていた。だが二人にしてみれば、ソラの幸せを優先してほしいと思っていた。そう、自分達の幸せは二の次だ。

 苦労が耐えないのはソラであり、この先も続くだろう。それなら、支えとなる相手が必要だ。それはタツキやクリス――無論、カディオではない。年齢の近い異性。つまり、結婚相手。

(……賑やかだな)

 行きかう人々の流れに、視線を走らせる。それは何気ない仕草であったが、視線の中には多くの人物が入ってきた。年齢に、統一感はない。無論、性別も様々。しかし、ひとつだけ共通している部分が存在した。それは、人々が浮かべる表情。どの顔も皆、とても明るい。

 日々の生活に満足しているのか、それとも偽りの仮面をつけているのか。それは本人に訊ねなければわからないことであったが、力を持つ者よりは幸せだろう。現に、この街は平和だ。

 もしソラの立場が知られたら、大騒ぎになってしまうだろう。そして罵倒が飛び、彼自身を非難する。立ち尽くしていようが、彼等には関係ない。犯罪を起こす起こさないは意味をなさず、迫害の対象と成す。人々にとって、ラタトクスは人類の敵。全てが消え去ればいいと思っている。

 だからこそ、口をつむぐ。言葉に出してはいけない。ただ普通の人間として振る舞い、日々の生活を送る。そして、信頼できる相手のみに心を許す。今のところ、その人数は少ない。

「お待たせ」

「早いですね」

「レジの性能がいいから、早いぞ」

「そうですね」

「発展した文明は、有難い」

 それは他愛ない会話であったが、文明水準の低い地域を知っている者にとっては、意味深い会話であった。どっぷりと高水準の文明に浸っていると、それより劣る場所へ行った時、必ず苦労する。これこそ人間本来の生き方だと説明されても、我儘を言う者が多いという。

 人間の文化文明は、一足飛びで成長したわけではない。様々な過程を経て今の水準に至ったのだが、大半の者はそれを認識していない。だからこそ、野蛮や低水準と文句を述べる。凝り固まった思考では、正しい事柄を見出せない。見出せないからこそ、特定の概念を押し付ける。


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あきゅろす。
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