第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の22
しかしこの音を誰かに聞かれていても、声を掛けてくる人物はいないだろう。「所詮――」全ては、この言葉で片付けることができた。枠の中で生きる者と、そうでない者の差――それを肌で感じ取れる今日、無情とも非情とも取れる社会の仕組みに、ただ涙が頬を伝った。
(わからない)
この現状に、答えなどない。そもそも、このような展開になってしまった理由さえ、わかっていない。
何故、どうして――
発せられる言葉は霧散し、人々の耳には届かない。慈悲と慈愛――恵まれない不幸の相手には優しく手を差し伸べるというのに、どうして末端にまで及ばないのか。やはり彼等とて、同じということだろう。
何も知らない者は――
故にカディオは、大義名分を掲げている慈善団体が嫌いであった。表向きは素晴らしい行動を行っていると思われるが、裏を見れば同じ穴の狢。やっていることは、何も変わりはしない。それなら負の一面を認め、尚且つ歩みを進める人物の方が立派だとカディオは思っている。
それはタツキであり、クリスであった。しかし残念ながら、それ以外の人物は誰もいない。
(これから先……)
どのような未来が用意されているかは、誰にもわからない。今生きている人々はただ当たり前の生き、当たり前のように生活を送る。だがその当たり前の毎日が確実に運命を狂わせていることは、気付きもしない。
確実にゆっくりと、発せられる言葉のひとつひとつが、過ちへと導いていく。そして、ひとつの種族を滅ぼす。だが、涙を流す者はごく一部。有害な生き物が滅んだことを喜び、笑うだろう。
所詮、人間とはこのような生き物。心の闇が強ければ強いほど、人の死でさえ感動の涙を流す。
そしてその闇は、確実に広がりつつあった。まるでウィルスのように人から人へと伝染し、全ての惑星へと広がっていく。
もう、止めることはできない。
それが現実であり、決められた運命のひとつだから。
◇◆◇◆◇◆
「そう、馬鹿だ」
室内に響き渡るのは、男の声音。だがそれは相手を見下す台詞を言い、嘲笑う一面を見せる。
「気楽なものだよ。それが相手を苦しめているとは、気付いていないのだから。いい気なものさ。まあ、ゆっくりと楽しむ」
男は相手にそう伝えると、携帯電話を切る。そして、仕事を再開した。しかし、口許は先程から緩んでいた。
これから余程面白いことが行われるのか、笑い声が漏れる。男は、愉快でたまらなかった。
それは、欲しい物が着実に己のもとへと近付いていたから。
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