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第二章 揺らぐ心、不確かな絆
其の21

「毒されたか」

「嫌だね。洗脳って」

「違う!」

「それなら、協力しないと」

 そのように言うと、相手はカディオの胸元を指差す。そしてそれを水平に動かすと、何かを切り裂く動作を取る。それは「お遊び」に等しい行為であったが、冗談でやっていいものではない。

 刹那、カディオの眉が動いた。それを見た二人は互いの顔を見合すと、興醒めしてしまう。これ以上は、期待した反応を得ることはできない。そう判断すると、捨て台詞とも取れる言葉を残し立ち去った。

 この場合、興醒めという言葉は適切ではない。本当は、カディオに勝てないと思ったからだ。信念を含んだ言葉は、強い。故にいい加減で表面しか見ていない、ご都合主義の言葉では勝つことはできない。

 日頃から肉体を鍛えているのか、カディオの攻撃を受けた者は普通の足取りをしていた。しかし鍛えているのは肉体だけではなく、口も同じであった。それは捨て台詞に表れ、カディオを更に苛立たせる。

 ――ホルマリン漬けがお似合いだ。

 二人が発した言葉にカディオは、逆に相手がホルマリン漬けになればいいと思ってしまう。

 誰も好き好んで、身体を提供したりしない。だが彼等にしてみれば、それが正しいと思っている。

 そう、全ては生まれながらにして決まっている。

(お前等こそ、洗脳されている)

 人々は恐ろしいという理由で、ラタトクスを迫害する。しかし彼等達を利用して、科学の発展を突き進む。

 この矛盾は、一体何処から生まれるというのか。あれは好き。でも、これは嫌い。まるで、子供の我儘に等しい。

 それが、この世の摂理でもあった。そして摂理から外れた者は、批判の対象となってしまう。ラタトクスには及ばないが、社会的地位は著しく低下してしまう。しかしカディオは、出世する気などなかった。態々迫害をしてまで、得るものではないと考えているからだ。

 人間、捨てていいモノと悪いモノが存在する。カディオはそれがどのようなモノなのかはわかっているので、それを捨てることはしない。もし捨ててしまった場合、同時に人間としての生き方を捨ててしまったことになってしまう。カディオは冷たい壁に背を預けると、今までの出来事とやり取りを思い出していく。それはソラと出会い、互いに過ごした日々。

 そして――

 悪い日常ではなかった。刺激的というのは不謹慎であるが、そのような毎日を送れた。確かにカディオの日常は、ソラと出会ったことによって変わった。同時に、本当の友――親友と出会えたことは、感謝しきれない。いや、感謝という言葉では表せないほど、この出会いは大きい。

「俺は――」

 ソラを裏切るようなことは、決してしない。それは宣言できるが、何をすればいいのかわからないでいた。何をしてどうのようにすれば、世の中を変えていくことができるというのか。

 タツキは、抗うことはしない。それは、立ち向かう対象の大きさを知っていたからだ。冷静に物事を見極め、その時を待つ。しかしカディオは、感情的に動いてしまう。その結果が、先程の暴力。

 流石にこれは褒められたものではないが、頭に血が上ってしまうと、勝手に身体が動いてしまう。それだけ、ソラのことが心配ということ。だがそれでは、世の中を変えることはできない。

「クソ!」

 溜まりに溜まった怒りをぶつけるように、拳で壁を叩く。

 ゴン!

 静けさの中に広がるのは、鈍い音。だがその音は誰にも聞かれることなく、空しく響き渡った。


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